題目: 表情模倣が感情認知に及ぼす影響:表情ブロック課題を用いた検討

氏名: 村田藍子

担当教員: 亀田達也


 何気ない日常生活の中で、目の前にいる友人が怒っているのか、悲しんでいるのか、喜んでいるのか、私たちは即座に理解することができる。しかし、その一方で自閉症のように他者の感情を理解することが困難な人もいる。ではどのようにして他者の感情を理解することが可能となっているのだろうか。近年、他者の感情状態を理解するためには、本人が同一の感情を身体化する必要があるという主張がある(see Niedenthal, 2007)。この主張に基づき、本研究では感情と深く関わりがある‘表情’に着目して、表情模倣が他者感情認知に及ぼす影響を検討した。

 他者の表情を知覚すると、自動的に同一の表情が表出されることを表情模倣現象と呼ぶ。この表情模倣と他者感情理解の間に強い関連があることは、いくつかの実証研究によって示されている。例えば、表情模倣をするほど他者の感情認知が正確にできると報告されている(Wallbortt, 1991)。また、他者の感情を理解する必要のある場面で特定的に表情模倣が生起するという報告もある(Saito & Kameda, 2008)。しかし、これらの結果は、表情模倣が共感を引き起こしていると解釈できる一方で、共感することによって相手と同じ表情が生起していると解釈することも可能である。そこで、本研究では先行研究で得られた知見に基づき、表情模倣と共感の因果関係を探ることを目的とした。もし共感することによって相手と同じ表情になるのだとすれば、共感に至るプロセスに関しては何も答えが得られないが、表情模倣という自動的な身体反応が共感に重要な役割を果たしていることが明らかになれば、共感に至るプロセスの一端が解明される。

 本研究では、表情模倣こそが共感を引き起こしていると考え、表情をブロックすることによって実験的に表情模倣を抑制し、その際に他者感情認知の精度が下がるという仮説を立て、検討した。実験の結果、表情模倣を抑制した条件と、抑制していない条件では、他者感情認知の精度に条件差が見られなかった。ただし、今回の実験は条件を参加者間デザインとしたため、個人差の影響が強く、条件差が出にくかった可能性もある。今後条件を参加者内デザインとしてあらためて厳密に仮説を検討する必要がある。


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