題目: 資源分配と公正感—パレート原理支持傾向の年次変化—

氏名: 鈴木茉莉

担当教員: 亀田達也


 本研究では、資源の分配方法の選好傾向が年次によって変化したかを検証した

 分配に関する先行研究では、パレート効率的な分配方法と、平等分配や衡平分配などの「公正な」分配方法が対立する場面においては公正な分配が支持されること、さらに、遂行される課題の違いや、社会的決定場面か個人での選好場面かの違い、分配方法を評定する立場の違いなどによって配分方法の支持傾向に変化があることが示唆されているが(大坪・亀田・木村, 1994; 田村・亀田,2004; 田村・亀田・深野,2006)、分配方法の選好傾向は時代によっても変化があるのだろうか。斉藤・山岸(2000)によれば、日本と欧米圏で行われたIPJP調査(International social project, 1991)で、日本人は貧富の差は個人の責任であると考えるとともに、富が平等に分配されることを望んでいるということが明らかになった(Kluegal & Miyano, 1995)という。また、このような日本人の傾向は、終身雇用など長期的な関係を結び、結果よりむしろ努力を評価してきた結果、維持されたのではないかと考えられた。1990年代前半から成果主義が導入され、労働市場の流動性が高まってきたといわれているが、例えばその一連の流れは、資源分配の支持傾向に影響を及ぼさなかっただろうか。

 1994年から2008年にかけて行われた実験でとられた、分配に関する質問紙のデータを用いて再分析を行い、分配方法の支持傾向の変化を調べた結果、支持傾向に変化はみられなかった。本研究では、各年度でとられた質問紙の内容が完全には統一されていないという問題があり、そのことが結果に影響を及ぼしている可能性が否定できないため、年次変化がなかったとは断定できない。しかし本研究の結果からは、時代を超えて分配方法が安定して支持される可能性が示唆された。また、成果主義導入との関連についても明確な結果は得られていない。これについては、成果主義が実社会に十分に浸透して機能しておらず、影響がまだ現れていない可能性、成果主義と分配の支持傾向との相関がないという可能性などが考えられる。今後の研究では、長期的にデータを収集し分析を行うとともに、質問紙の項目を再検討し、社会的な背景の変化や心理尺度との関係を調べるなど、より詳しい分析をする必要がある。


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