題目: 利他行動と内的属性の情報統合が印象形成に与える影響

氏名: 小山敬子

担当教員: 高橋伸幸


 本研究の目的は、日常に存在する「〜せずにはいられない」という感情に駆られ、自己利益に直結しないのに非合理的にとられる利他行動の適応価を明らかにすることにある。

 他者に利益を与える利他行動は、自身の利益につながる利己行動に比べ、非合理的に思える。しかし利他行動をとることで良い評判を得られると考えると、この行動は適応的となる(Fehr, 2004)。また同じ利他行動でも、「評価が上がる」と利益を期待して合理的に行動した人と、「〜せずにはいられない」という感情に駆られるままに非合理的に行動した人とでは、後者の方が良い評価を得るだろう。神(2007)はその理由を、後者と交換関係を結んだ際、「相手を利せずにはいられない」という態度を期待できるためだと考えた。

 神(2007)は質問紙実験の結果、同じ利他行動をとっても、「感情的」に見える人物の方が「理性的」に見える人物よりも好印象を持たれることを明らかにした。しかしこの結果は質問紙の構成上、対比効果−例えば同じ温度の水に手をつけても、前に手をつけていた水の温度次第で、実際以上に冷たくまたは熱く感じるのはこの知覚の効果(チャルディーニ, 2007)—でも説明可能だという問題、及び尋ねた「好印象」が社会的交換場面でのものではないという問題が存在した。

 本研究では、主に(1)神(2007)の問題点を克服した上で、「感情に駆られた利他行動」が他者からの評価を上げるものであるのか、(2)評価が上がる場合に、単に印象が良くなるだけでなく、交換場面で交換相手としても望まれるのか、これら2点を「感情的」モデルの「兄ちゃん」と「理性的」モデルの「お兄さん」のシナリオを比較して検証した。

 結果は仮説と異なり、参加者は常に「兄ちゃん」よりも「お兄さん」に好印象を抱き、かつ交換場面において信頼の必要な高依存関係を選択した。そこでモデルの比較ではなく、参加者が対象人物に抱いた印象が評価に与える影響の分析を行った。その結果、参加者は人物を「衝動的」「評判を気にする」「戦略的」と思うほど悪印象を抱き、高依存関係を選択しなかった。また人物を「感情的な利他行動者」と思うほど好印象を抱き、高依存関係を選択した。これは神(2007)の理論を支持する結果である。今後は、モデルの印象操作が不完全であったことを踏まえ、ある人物を「感情的な利他行動者」と思う要因は何かを明らかにする必要があるだろう。


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