題目: 一般的信頼と注意深さが他者の利他性検知に及ぼす影響

氏名: 小泉径子

担当教員: 山岸俊男


 人間は社会で生活する際、他者からの搾取を避ける必要がある。安心社会では他者を搾取するメリットを低下させる社会構造によって人々の安心を保障するが、信頼社会では他者の性質を見抜く必要がある(山岸, 1995)。本研究の目的は、個人特性である一般的信頼が他者の利他性の見極めに与える影響を検討することにある。これまでの研究では、見極めの対象である他者の利他性の指標として、偽ることが可能な自己申告式の尺度を用いていたが(Brown et al., 2003)、本研究では、経済ゲーム実験での実際の行動を利他性の指標とした。

 実験には、102名が参加した。参加者は、経済ゲーム実験に参加した人物の映像を見て、その人物の利他性の見極めを行った。映像は音声を削除したものを用いた。映像の人物には、信頼ゲームに参加した人物と、囚人のジレンマゲームに参加した人物がおり、見極めの際には、同一ゲームに参加した同性の参加者の中から、協力者の映像と非協力者の映像2つを左右に並べて提示し、どちらがより協力的に振舞ったかを当てさせた。正解率は見極めの正解回数/見極めの回数により算出した。利他性の基準は、囚人のジレンマゲームの場合は協力したかどうか、信頼ゲームの場合は、信頼された場合に相手に返報したかどうかである。

 全体の正解率は50%であり、信頼ゲーム参加者の映像を用いた場合では53%、囚人のジレンマゲーム参加者の場合では47%であった。また、正解率に対して一般的信頼は効果を持たなかった。しかし、質問紙項目の「注意深さ(7件法)」の高低で参加者を分けた場合、注意深さが高い人(評定値3.8以上)においては、信頼ゲームにおける見極め正答率と一般的信頼との間に正の相関が見られたが(r=.20, p<.05)、注意深さが低い人(評定値3.8未満)においては、相関は見られなかった。注意深さの高い人において一般的信頼が高いほど他者の利他性をよく見極められるという本研究の結果は,一般的信頼の高い人は他者の利他性を示す情報に注意を払い,それにより相手の利他性を的確に判断できるとするこれまでの議論から考えて妥当であるといえる。


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