題目: 差別に至る心理プロセスの性差 −最小条件集団を用いた実験研究−

氏名: 木村亜由美

担当教員: 結城雅樹


 本研究では、男性には妨害系脅威、女性には汚染系脅威に対する適応心理メカニズムが備わっているとの仮説を検証した。

 これまで、社会心理学における集団行動研究では、脅威の対象となる外集団への差別行動を引き起こす心理メカニズムは一様なものと考えられていた。しかし、Cottrell & Neuberg (2005) は、適応論の観点から、外集団への差別・偏見は1つの心理過程から生じないと主張した。すなわち、外集団への差別は、外集団脅威に対する適応行動であり、外集団に対して知覚する脅威の種類によって、活性化する心理メカニズムの種類も異なるのである。近年、外集団脅威の中でも注目されているのが、妨害系脅威(外集団による攻撃・資源の強奪により、内集団の目標が妨害される)と汚染系脅威(外集団がもたらす病原体等により内集団が汚染される)である。更に、これらの脅威への反応に性差があることが示唆されている。先行研究によれば、男性は女性よりも妨害系脅威に反応しやすく、女性は男性よりも汚染系脅威に反応しやすいという。

 以上より、本研究では、男性は妨害系脅威の手がかりを与えると差別行動を生起しやすく、女性は汚染系脅威の手がかりを与えると差別行動が生起しやすいとの仮説を立て、その妥当性を実験室実験にて検証した。

 本実験では、まず、第一実験と称して脅威の手がかりの操作を行った後、第二実験と称し、最小条件集団における内集団ひいきの測定を行った。条件は、統制条件、汚染系脅威条件、妨害系脅威条件の3種類を設定した。統制条件では、外集団脅威とは無関連の文章を読ませた。汚染系脅威条件では、内集団が外集団のもたらす病原体により汚染される、妨害系脅威条件では、内集団が外集団により攻撃を受けたり、資源を奪われたりする、との内容の文章を読ませた。

 結果、女性は、予測と一貫して汚染系脅威の手がかりに反応し、報酬ポイントを分配する課題で内集団ひいきが生起していた。しかし、男性では、予測と一貫するパタンは得られなかった。また、女性は汚染系脅威、男性は妨害系脅威の手がかりを与えたとき、外集団スパイト動機と内集団ひいきが正相関していた。さらに、それらの外集団スパイト動機の規定因を検討したところ、女性は汚染系脅威の手がかりを与えたとき、嫌悪感情から外集団を回避したいとの動機を経て外集団スパイト動機に結び付くことが示された。


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