題目: サンクコスト効果の実証的検討:回収不能の先行投資が意思決定に及ぼす影響

氏名: 川村誠

担当教員: 亀田達也


 本研究では、サンクコスト効果(sunk cost effect)と呼ばれている認知バイアスに着目し、その効果を生み出す要因について実証的に検討した。サンクコスト(sunk cost、埋没費用とも訳す)とは、ある計画に投資した資金のうち、その計画を中止しても回収できない費用のことを指す。経済学的に合理的な意思決定を行うならば、現在の意思決定においてサンクコストを考慮する必要はない。しかし、サンクコストは人間の意思決定を束縛することが経験的に知られている。サンクコストに囚われ、経済学的に非合理的な意思決定を行うことを、サンクコスト効果(Arkes & Blumer, 1985)、あるいはコンコルドの誤謬(Concorde fallacy)(Dawkins & Brockmann, 1980)と呼ぶ。

 本研究の目的は、以下の三点である。第一に、先行研究において不十分であると考えられるサンクコスト効果の定義を見直し、継続投資型のシナリオに限定してサンクコスト効果が観察されるという仮説を検証する。第二に、意思決定の「停止規則」としてサンクコスト効果が現れるのではないかという仮説のもと、現在の選択肢に満足する程度に応じてサンクコスト効果を示す程度が異なるという仮説を立て、検証する。第三に、社会階層とサンクコスト効果の関連を探索的に検討する。

 北海道大学と北星学園大学の学部学生189名を対象とした質問紙調査を行った。調査には場面想定法を用いた。状況の異なるシナリオを三種類用意した。参加者に、既に金銭が投資された選択肢Aと、それより大きな経済的利益をもたらす選択肢Bとを比較し、選択するよう求めた。選択肢Aへの投資は回収できないことがシナリオ中で示されている。このとき、選択肢Aを選ぶ傾向がサンクコスト効果を示すものである。選択肢Aを選ぶこと選択肢Aのもたらす経済的利益の大小について三つの条件を設けた。

 調査の結果、第一に、サンクコスト効果を示す回答を示す割合は全ての条件を平均して28.2%であり、継続投資型のシナリオにおいてサンクコスト効果が見られ、第一の仮説は支持された。また、この割合は先行研究と比較して非常に低いものであった。第二に、現在の選択肢が与える経済的利益が大きいほどサンクコスト効果を示す割合が高いという結果が得られた。このことは、現在の選択肢に満足しているほどサンクコストに捕らわれやすいことを示し、第二の仮説は支持された。また、社会階層による影響は見られず、第三の仮設は支持されなかった。


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