題目: 感情経験と社会生態学的環境:Day Reconstruction Methodによる検証

氏名: 清田ひろの

担当教員: 亀田達也


 本研究では、Kahnemanら(2004)が紹介したDay Reconstruction Methodを用いて、人々の一日の出来事とそれに伴う感情経験を調査し、主観的な判断による幸福度や生活満足度、収入などとの変数との関係を調べた。Kahnemanら(2004, 2006)が行ったDRMでは、参加者が女性のみで、12項目の感情について尋ねていたが、本研究では、男性47名、女性54名の計101名の一般人を対象とし、18項目の感情について尋ね、先行研究の頑健性を追試した。

 Kahnemanら(2004, 2006)の先行研究では、収入と幸福度とは正の相関関係にあるが、収入と瞬間的な幸福との間には相関関係は見られないと報告されている。彼らは、これらの現象をfocusing illusionと名付けている。この現象は特に、質問紙において収入や健康状態などの生活状況を答えた後に主観的な幸福感判断を尋ねられる場合に見られるものである。自分の置かれている状況を顧みることによって、主観的な幸福感判断にその要因の影響が現れるのである。本研究でも、収入と幸福度・生活満足度とは正の相関関係にあるが、収入と瞬間的な幸福との間には相関関係は見られず、focusing illusion仮説を支持する結果となった。

 また、Kahnemanら(2006)は、収入が高くなるとネガティブな感情が喚起されると報告しているが、本研究においては、相対的に収入が低い人の方が、『ねたましい・羨ましい』、『軽蔑』、『恥ずかしい』などの瞬間的な感情を多く感じている傾向があるということが明らかになった。また、参加者を過去一年間の収入が500万円未満だったグループと500万円以上だったグループとに分けて、それぞれの感情評定の平均値を比べたところ、相対的に収入が低い人は高い人に比べて、『恐ろしい』、『気持ち悪い・嫌悪』、『軽蔑』、『ねたましい・羨ましい』などといった感情を感じやすいことが明らかになった。

 Kahnemanら(2006)は、収入が高いこと=幸せではないと結論付けた。このことは、社会における階層差をなくさなくてもいいという様な安易な階層維持論に繋がりかねない危険性を含んでいる。一方、本研究における、低収入の人の方がネガティブな感情反応を示しているという結果は、社会における格差是正の必要性を改めて示唆するものである。


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