題目: 不公平を許せない脳 —fMRIで探る勘定と感情の葛藤—

氏名: 東野太一

担当教員: 山岸俊男


 人という生き物は、不公平な扱いを許さない傾向を持つ(Guth, Schmittberger, & Schwarze, 1982)。「世の中は不公平だ」と不遇をかこち、「格差問題」など不公平感を伴う社会問題には強く抗議する。本研究では、fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)を使用し、一方的最後通告ゲーム(Impunity Game; Bolton & Zwick, 1995)をプレイ中の被験者の脳活動を測定することで、不公平な状況に直面した際の神経活動を明らかにすることを目的とした。

 一方的最後通告ゲームとは、2名の間でお金の分配を行う経済ゲームである。一方が「分配者」、もう一方が「決定者」と呼ばれる役割に割り当てられる。まず分配者は実験者から受け取ったお金(1,000円)を自身と決定者の間でどのように分けるかを提案する。その後、決定者は分配者の提案を受け入れるか拒否するかを決める。決定者が提案を受け入れた場合、両者は提案どおりのお金を受け取る。それに対し、決定者が提案を拒否した場合、分配者は自身の提案どおりにお金を受け取ることができるが、決定者は何も受け取ることができない。参加者はすべて決定者の役割に割り当てられ、一方的最後通告ゲームを10回、毎回相手を入れ替えて行った。分配者の手は実験者によって事前に決められていた(分配者500円:決定者500円を5回、分配者700円:決定者300円を1回、分配者800円:決定者200円を2回、分配者900円:決定者100円を2回)。

 実験の結果、不公平提案の約40%が拒否された。また、不公平提案を拒否した試行では、左・島皮質前部(left anterior insula)の活動が見られたが(p<.001, uncorrected)、不公平提案を受け入れた試行では島皮質前部の活動は見られなかった。島皮質前部は嫌悪感などのネガティブな感情と関わりがあることが明らかになっている。したがって、被験者は不公平な状況に対して嫌悪を感じ、不公平提案を拒否したと考えることができる。

 本研究の結果は、人々は不公平な状況が改善できない場合であったとしても、不公平提案を受け入れないこと、また、その行動は感情が引き起こすことを示している。これらの結果は、堀田ら(2007)の感情的コミットメント説を支持するものである。


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