題目: 対人関係ブースターとしての自尊心

氏名: 畠沙公子

担当教員: 結城雅樹


 本研究は、高自尊心者が低自尊心者に比べて対人関係拡張傾向が強いことを示し、自尊心の対人関係ブースト機能を実証することを目的とした。

 従来の比較文化研究では、日本人よりもアメリカ人の方が自尊心の水準が高いことが示されている。近年の社会生態学的アプローチによる研究によって、この自尊心の日米差は両社会の関係流動性の差異によって媒介されることが示されている。関係流動性とは、ある社会、または社会状況に存在する、必要に応じて新しい対人関係を形成できる機会の多さのことである。アメリカに代表される北米では関係流動性が高く、日本に代表される東アジアは関係流動性が低い。では、なぜ高関係流動性社会で人々は高い自尊心を保持しているのか。

 高関係流動性社会では、関係形成の機会が多いため、より良い新規関係を形成することが適応的になる。しかし、そこでは他者からも望ましい相手として選ばれなければならない。その際、自己の社会的評価の反映である自尊心を高く保持していることが関係形成の成功、つまり新規関係で利益が得られるとの指標となる。よって、高関係流動性社会では高い自尊心が適応価を持つ。一方、低関係流動性社会では、関係が固定的で安定しているため、新たな関係を形成する機会が少ない。よって高関係流動性社会と比較すると、自身の社会的評価を気にする必要が少なく、自尊心の重要性は相対的に低い。

 以上より、次の仮説が導かれる。高い自尊心を保持していると、新規関係形成の成功予測ができるため、高自尊心者は低自尊心者に比べてより新しい対人関係を形成するだろう。

 この仮説検証のため、本研究は場面想定法を用いた相関研究と実験研究の二つを行った。研究1では調査対象者の自尊心の高低によって関係拡張傾向が異なるかを検証した。研究2では参加者の自尊心を実験室内で操作し、自尊心高条件と低条件の間で関係拡張傾向が異なるかを検証した。

 研究1では高自尊心者は低自尊心者よりも関係拡張傾向を強く示し、自尊心と関係拡張傾向の間に強い関連があることが示された。因果関係の特定を目指した研究2では、研究1に比べると弱い結果ではあるが、自尊心高条件の方が自尊心低条件よりも関係拡張傾向を示した。

 以上より、自尊心には人々を関係拡張行動へ促す、対人関係ブースト機能があることが示唆された。


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