題目: 社会構造とステレオタイプ−関係流動性プライミングを用いた検討

氏名: 堤健太

担当教員: 結城雅樹


 本研究の目的は、関係流動性が低い状況下に比べて、関係流動性が高い状況下では、ステレオタイプを用いる程度、ステレオタイプが現実を正確に反映した情報であると捉える程度が高いことを示すことであった。

 関係流動性とは、ある社会、または社会状況に存在する、必要に応じて新しい対人関係を形成できる機会の多さである(Schug・結城,2006; 佐藤・結城,2006)。この関係流動性の違いは、個人の行動と内的属性(性格、能力、態度など)との対応度に影響する。関係流動性の低い社会では新規対人関係形成の機会が少なく、人々の行動が対人関係に縛られるため、自身の内的属性に従って行動することが難しい。一方、関係流動性の高い社会では新規対人関係形成の機会が多いため、現在の関係から離れることのコストは少なく、人々は自身の内的属性に従って行動できる。

  そして実は、行動とステレオタイプとの対応度についても、同様の議論が展開可能である。ステレオタイプとは、ある集団・社会的カテゴリに属するメンバーの内的属性について、人々が抱く信念のことである(Lippmann, 1922)。このように、ステレオタイプを内的属性に関する情報として捉えなおすと、実はステレオタイプと行動の対応度も、実は関係流動性の高い社会でより高くなることが予測される。つまり、既存の関係に縛られ自身の内的属性に従って行動することが難しい低流動性社会に比べて、高流動性社会のほうがステレオタイプ使用の有用性が高くなるだろうと予測される。

  以上のことから、関係流動性の低い状況下に比べて、関係流動性の高い状況下においては、人々はステレオタイプをより有用なものだと知覚するという仮説が導出される。

  本研究では以上の仮説を検証するため、2つの実験を通じて、直面している状況の関係流動性認知がステレオタイプの有用性知覚に与える影響を検討した。具体的には、状況プライミング法を用いて参加者が直面している状況の関係流動性認知を操作し、挙げられたステレオタイプの個数と、ステレオタイプの正確性評定が変化するかどうかを検証した。

  実験の結果、直面状況が高流動的であると認識させられた参加者の方がステレオタイプの正確性をより高く評定するという、本研究の仮説を支持する結果が得られた。しかし、挙げられた個数に関しては仮説を支持する条件差は認められなかった。本研究の問題点として、本研究で用いた関係流動性プライムとステレオタイプ使用の指標の妥当性について疑問の余地があることが挙げられる。今後はそれらの点を改善して仮説を検証する必要があるだろう。


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