題目: 地域通貨が一般交換認知の共有化を促進させる効果 〜黒松内町における事例研究〜

氏名: 鈴木佐祐里

担当教員: 大沼進


 地域通貨は、貨幣価値を持たず、限定された地域内でのみ利用可能であり、相互扶助サービスの交換媒体として多くの地域・団体で導入される。しかし2000年ころをピークにその活動は減少傾向にある。その理由として、現金と交換できない、地域通貨がなくても助け合いはできる、といったことが挙げられる。本研究では、地域通貨が実際に流通していなくても、地域通貨のシステムが残っていることで、一般互酬の期待が高まっているのではないかという観点から調査・検討を行った。

 調査の対象としたのは道内黒松内町の地域通貨「ブナ〜ン」である。運営主体である「黒松内21世紀のエコミュニティネットワーク・くろねっと」は2001年より地域通貨の流通を開始し今日も存続している。だが、本調査開始時期にはすでに地域通貨の利用は見られなくなっていた。それでも「くろねっと」という組織を残していることについて、「必要時に利用可能な相互扶助組織」と見なしているとのことであった。
 「くろねっと」という組織があることで「見知らぬ他者をあてにできる」という話を、一般互酬システムとして捉えることが可能だろうと考え、「くろねっと」会員と非会員を対象に質問紙による調査を行った。調査予測は次のようである。「くろねっと」を一般互酬システムとして捉えられるのならば、①くろねっと会員は非会員よりも、地域通貨の直接効果(依頼コスト削減・コミュニケーション促進・利用者同士の信頼関係形成等)や見知らぬ他者も含めた一般互酬性への期待が高いだろう。②一般互酬の期待は、直接的な効果の期待によりもたらされる。さらに、実際の利用経験により利用意図が高まり、その利用意図が一般互酬の期待に影響するだろう。③見知らぬ他者一般も含めた一般互酬の期待は、地域全体のアイデンティティへ拡張しているだろう。

 結果は仮説をおおむね支持するものであった。すなわち、①会員の方が非会員よりも直接効果および一般語集の期待が高かった。②一般互酬の期待にとくに関連する要因は直接効果の期待と利用経験による利用意図であった。また③一般互酬の期待から地域アイデンティティへの影響も見られた。さらに、地域アイデンティティへは、利用経験と一般的信頼も規定因となった。

 
以上を総括し、実際の利用が見られなくても、地域通貨のシステムが維持され続けていることで一般互酬の期待も維持されていると解釈できることについて議論された。


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