題目: 表情模倣と所属集団の関連についての実験研究:内外集団ラベリングを用いた検討

氏名: 齋藤寿倫

担当教員: 亀田達也


 感情の持つ適応的意義とはなんだろうか。これまで感情について数多くの研究が行われてきたが、感情の適応的意義についての研究はあまり進展を見ていない。この問いを検討する一つの道筋として、個体間で感情的心理状態が同期化する現象である、感情伝染現象について知ることが有効だろう。なぜなら、ある感情が伝染するならば、その感情は伝染することによって個体の利益となるような機能的側面を持つと考えられるからである。本研究では、感情伝染現象と密接な関係があるとされる表情模倣現象に着目し、表情模倣の生起頻度などに感情間で違いがあるのかどうかを検証した。

 表情模倣とは、心的状態とは概念的に独立に、他者が表出した表情に他の個体の表情が一致する現象を指す(田村・亀田, 2006)。この現象について多くの先行研究が行われているが、一貫した結果は得られていない。この原因として先行研究におけるいくつかの問題点が考えられる。一つには刺激の妥当性の問題があるだろう。多くの表情模倣研究ではEkmanらが作成した表情写真を刺激として使用している。これは日常生活ではまず見ることのないような強烈な表情の写真であり、参加者に意図しない反応を誘発する可能性がある。さらに、多くの研究で表情変化の指標として用いられているfacial EMGの妥当性の問題も考えられる。生理指標を尺度として採用する場合、実験中の参加者の行動を観察して、アーティファクトを除去することが必須とされるが、多くの表情模倣研究では行われていない。また、ほとんどの先行研究では喜び表情と怒り表情といった2種類の表情のみを使用しており、多数の表情を扱った研究は少ない。表情模倣現象を検討するには、2表情のみの研究では不十分である。

  本研究では、第一に、先行研究の問題点を改善した実験を行い、一貫した結果が得られていない表情模倣現象の頑健性を確認することを目的とし、第二に、心理学で多くの研究がなされてきた内集団成員と外集団成員に対する行動の違いを踏まえ、内外集団が表情模倣に与える影響を検証することを目的として実験を行った。
 仮説は以下の通りであった。

  1. 先行研究で頑健に表情模倣が確認されている、喜び表情と怒り表情では、表情模倣が起こるだろう(その他の表情については探索的に検討する)
  2. 内集団条件においてのみ、表情模倣が起こるだろう

 実験の結果、仮説とは異なり、悲しみ表情、驚き表情、怒り表情のみで表情模倣が確認され、内外集団の効果は見られなかった。


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