題目: 2者罰と3者罰における意図の役割の比較

氏名: 大西亜紀

担当教員: 山岸俊男


 これまでの経済学における研究によって、人々は不公正な状況(e.g. 資源の不公平分配)に直面すると、自身が被害者の立場である場合に限らず、被害を受けていない第3者の立場であっても,自らコストを支払ってまで不公正な行いをした者を罰する傾向を持つことが明らかになっている(Guth, Schmittberger, & Schwarze, 1982; Fehr & Fischbacher, 2004)。また、最後通告ゲームを用いた実験によって、被害者が罰を行う際には加害者の意図の有無が重要であることが分かっている。しかし、高岸ら(印刷中)は第3者罰ゲーム(Fehr & Fischbacher, 2004)を用いて第3者罰における意図の効果の検討を行い、第3者罰においては相手に意図がない場合でも、生じた利得格差を是正する目的でかなりの罰が生じることを実験によって示した。しかし、最後通告ゲームと第3者罰ゲームでは、ゲーム構造が異なるため、本来ならば2者罰と3者罰における罰の程度を直接比較することは出来ない。そこで本研究では、同じデザインを用いた実験を行うことで、2者罰と3者罰における意図の役割を直接比較することを目的とした。

実験の参加者は121名であった。実験デザインは、役割(2者・3者)×条件(意図あり条件・意図なし条件)であり、すべて参加者間要因配置で行った。2者罰ゲームは、分配者と受け手の2名で行われた。まず分配者が実験者から1,500円を受け取り、そのお金を分配者と受け手の間でどのように分配をするかを決定した。その際に、分配者の意図を操作した。意図あり条件は、分配者はX:分配者に1,200円、受け手に300円、Y:分配者に750円、受け手に750円という2つの分け方のうちXを選んだという状況であり、意図なし条件は、分配者はX:分配者に1,200円、受け手に300円、Y:分配者に1,200円、受け手に300円という2つの分け方のうちXを選んだという状況であった。その後、受け手は分配者から分配されたお金の一部を実験者に支払うことで分配者のお金を減らすかどうかの決定を行った。受け手の支払った金額の4倍の額が分配者から減らされた。3者罰ゲームは分配者、受け手、第3者の3名で行われた。まず分配者は実験者から1,500円を受け取り、そのお金を分配者と受け手の間でどのように分配するかを決定した。その後、第3者は実験者から渡されたお金の一部を実験者に支払うことで分配者のお金を減らすかどうかの決定を行った。第3者の支払った金額の4倍の額が分配者から減らされた。

実験の結果、男性においてのみ2者罰、3者罰に意図の効果が見られた。また、意図なし状況での罰の程度は、2者罰、3者罰ともに同程度であった。事後質問紙の分析の結果、女性においては「せっかく実験にきたのだから何かして帰ろう」という意識が意図なし条件で強く働くことで意図の効果が見られなかったことが明らかになった。


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