題目: 最小条件集団状況での信頼行動と互酬行動における内集団バイアス

氏名: 名取迪恵

担当教員: 山岸俊男


 内集団バイアスは何故起こるのか。神・山岸 (1997) は集団所属性についての知識を共有しているか否かを操作した同時PDを用いて、内集団バイアスのメカニズムを一般互酬性への期待に基づく集団協力ヒューリスティクス仮説によって説明した。しかし、非協力行動の原因に、搾取してやろうという動機と搾取される恐れが混在していた。そこで、Yamagishi & Mifune (2008) はDictator Gameという報酬分配課題を用い、搾取の恐れが存在しえない状況での分配行動を検討したところ双方向条件でのみ協力的・愛他的行動が見られた。

 本研究の目的は、最小条件集団状況での内集団に対する協力的・利他的行動が、一般交換システムからの排除を避けるための評判維持戦略であるというYamagishi & Mifune (2008) および堀田・山岸 (2007) の概念的追試を行うことにある。本研究では、先行研究に倣い知識を操作し、信頼ゲームを複数回行った。信頼ゲームとは方法の選び手と決め手の役割に分かれ金銭のやりとりを行う課題である。選び手は、相手に報酬を委託するかどうかを決定し、決め手は委託された報酬 (500円) をどのように自分と相手に分配するかを決定した。なお、決め手の分配行動にのみ焦点をあて分析した。実験参加者は北大生211名であった。実験デザインは、2 (相手の所属集団:内集団 vs. 外集団) ×2 (集団所属性の知識:双方向 vs. 一方向) の2要因混交配置であった。前者の相手の所属集団は参加者内要因、後者の知識は参加者間要因であった。

  結果、決め手の相手への500円中の平均分配額は、双方向条件では内集団相手に152.1円 (SD=102.8)、外集団相手に、135.6円 (SD=98.8)であり、一方向条件では、内集団相手に151.4円 (SD=105.5)、外集団相手に151.3円 (SD=108.7)であった。よって、相手が自分を同じ集団成員だと知っている双方向条件においてのみ内集団バイアスがみられ、集団協力ヒューリスティクス仮説を支持した。だが、この内集団バイアスが、集団内に悪い評判が広がることを懸念して生じたかどうかは、事後質問紙からわからなかったので、さらなる追試がなされるべきであろう。


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