題目: リスク状況下の意思決定:資源変動と時間変動での選好の差異

氏名: 河口朋広

担当教員: 亀田達也


 本研究では人間が動物と同様に栄養状態によってリスク選好を変えるのか、また、人間が遅延リスクにおいてどのような選好を示すのかを検証した。
リスク下での人間の振る舞いについては、プロスペクト理論(Kahneman & Tversky, 1979)などの観点から多くの研究がされてきた。しかし従来のリスク選好研究は、①記述研究にとどまっている②資源獲得時期の「遅延」に関するリスクについて検討していないなどの問題点がある。

 一方、動物生態学のRisk Sensitive Foraging理論(Stephens, 1981)では、動物のリスク選好を適応的観点から捉えており、遅延のリスク選好についても検証がなされている。Risk Sensitive Foraging理論では、動物は、生存に必要なエサを得られる場合は、リスク回避的選好を見せるが、栄養状態が低く、生存に必要なエサを得ることができない場合にはリスク追求的選好を示すようになることが予測されている(=energy-budget rule)。エサの量のリスクにおいては、この予測と一貫した結果が得られている(Caraco et al. 1980)が、遅延に関するリスクでは、多くの動物がリスク追求的で、RSF理論から考えて非適応的である(Reboreda & Kacelnik, 1991)ことが問題とされている。本研究では、これは遅延割引によって選択肢の主観的な期待値が変化しているためだと考えた。これを考慮し、本研究では参加者ごとの遅延割引率を測定し、正確な遅延リスク選好を測ることを試みた。

  実験では、資源量リスクと遅延リスクそれぞれにおいて、確実な選択肢と不確実な選択肢を提示し、参加者がどちらをどの程度好むかを測定した。また、栄養状態の操作を模して、前払い金の獲得、損失、ニュートラルの3条件を設け、条件間でリスク選好の平均値に差があるか検討した。

  実験の結果、栄養状態によるリスク選好の変化は再現されなかったが、資源量リスクにおいてはリスク回避的である一方、遅延リスクにおいてはリスク追求的であるという、動物実験の結果と同様の選好が示された。また、遅延割引率によって遅延リスク選好を補正すると、選好はリスクニュートラルであった。
この結果は、動物も人間もenergy-budget ruleのような適応的な意思決定システムに従っているとする見方を補強する結果といえるだろう。


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