題目: 内集団バイアスにおける性差の検討:最小条件集団を用いた実験研究

氏名: 石戸谷瑠衣

担当教員: 山岸俊男


人は自分の所属する集団 (内集団) 対して好意的・協力的に行動する一方で、自分が所属しない集団 (外集団) 対しては敵対的・競争的に行動するという内集団バイアスを示す傾向を持っている。これは現実場面だけではなく、実験室内で些細な基準で分けられただけの最小条件集団においても生じることが多くの実験で明らかにされている。最小条件集団における内集団バイアスは、集団協力ヒューリスティクス仮説により、集団内の相互協力の達成を目指そうとする直観的な意思決定方略によって生じると説明されてきた (神・山岸, 1997)。一方、Social Dominance Theory (SDT; Pratto, Sidanius & Levin, 2006) は、現実の内集団バイアス現象には集団間の競争という側面があると主張している。SDTでは内集団バイアスにおける性差に注目し、多くの集団間葛藤は男性がその担い手および対象になるという Subordinate male target 仮説 (Sidanius & Veniegas, 2000) を提唱している。

 そこで本研究では、最小条件集団において競争状況の手がかりとして取引相手の性別を操作することで、ヒューリスティクスの働きとは独立に、内集団バイアスが生じるのかを検討した。具体的には、内集団バイアスの生起パターンの男女差を検討するために、男性のみあるいは女性のみの最小条件集団を用いて神・山岸 (1997) の実験パラダイムを追試した。従属変数は1回限りの囚人のジレンマゲームでの相手への提供金額である。独立変数は、相手の所属集団(相手が内集団か外集団か)と、相手が持つ所属集団の知識(自分も相手もお互いの所属集団を知っている相互条件と、自分は相手の所属集団を知っていても相手は知らない一方条件)の2要因、計4条件が参加者内で配置された。

 実験の結果、女性では相互条件でのみ内集団バイアスが生じ、一方条件では生じなかった。男性では知識の条件に関わらず内集団バイアスが生じた。また、相手がいくら協力してくれると思うかという期待金額からの残差分析の結果、男性の一方条件でのみ、期待とは独立に内集団バイアスが生じていた。

 本研究結果は、「集団内の協力」に基づく内集団バイアスと「集団間の競争」に基づく内集団バイアスがそれぞれ独立の心理メカニズムとして存在する可能性を示している。


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