題目: ナショナルアイデンティティが内外集団への信頼行動に与える影響: 日本、中国、台湾をつないだ信頼ゲームを用いた比較研究

氏名: 李 雨航

担当教員: 山岸 俊男


本研究の目的は、信頼行動は互酬行動を生み出す機能を備えるかどうかを検討することである。また、集団がこの信頼行動と互酬行動にどのような影響を与えるかを、つまり、相手が内集団か外集団かによって行動が変わるかを探索的に検討する。本研究では、国籍を集団カテゴリとして用いた。

本研究では、日本と中国と台湾の3カ国をインターネットで繋いで実験を行った。日本・中国実験、日本・台湾実験、中国・台湾実験の3つの実験を実施した。それぞれの実験に2カ国(地域)の参加者が同時に参加した。本研究では、信頼ゲームを用いて信頼行動と互酬行動を測定した。具体的には、毎回相手を変えて2人1組で個人ポイントと共同ポイントの決定を行った。個人ポイントとは、それぞれが確実に獲得できるポイントであり、共同ポイントとは2人で分け合うポイントである。まず、2人のうち1人(被分配者)が、個人ポイントとして90P、共同ポイントとして60Pの組み合わせ(不信頼選択)か、個人ポイントとして30P、共同ポイントとして300Pの組み合わせ(信頼選択)を選ぶ。もう1人(分配者)は、被分配者が選択した共同ポイント(60Pか300P)を、2人で平等に分けるか(平等分配)、すべて自分のものにしてしまうか(独占分配)を選ぶ。さらに、国籍の影響を国民アイデンティティ尺度によっても測定し、信頼ゲームでの行動との関係を調べた。

まず、全体的に見ると、信頼された場合は信頼されなかった場合より平等分配が多く見られた。つまり、信頼行動が互酬行動を引き出すことが示された。

国によって行動のパタンに違いが見られた。中国人は外集団相手より内集団相手の場合のほうが信頼または平等分配行動が強く見られた。一方、日本人は相手によって行動を変える傾向がほとんど見られなかった。台湾人は中国人相手の時に内外差をつける傾向があった。

また、中国人にのみ、行動とアイデンティティ尺度に興味深い関係が見られた。中国人としてのアイデンティティが高い人ほど、内集団に信頼行動が見られた。さらに、中国人としてのアイデンティティが高い人ほど、外集団に平等分配行動が見られた。日本と台湾では特にアイデンティティと行動に関係は見られなかった。


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