題目: 関係形成のブースター: 社会間比較研究で探る自尊心の機能

氏名: 田元みなみ

担当教員: 結城雅樹


本研究では、自尊心(自分自身の社会的な価値についての自信)の幸福感に与える影響力が社会の関係流動性によって異なることを検証し、自尊心の機能を探ることを目的とした。

関係流動性とは、当該社会において、新しい相手と関係を形成する機会の頻度を意味する。機会コストの高い社会では、利益を最大化するために、既存の関係にとどまらず、常によりよい新規関係を形成していく必要がある。ただし、新たな関係を形成するには、他者から望ましい相手として選ばれなければならない。この時、自分に対する他者一般からの評価を集約したものである自尊心は、関係形成が成功し、利益を得られるかどうかの予測を提供する。よって、関係流動性の高い社会では、自尊心が重要な意味をもち、幸福感に強い影響を与えると考えられる。

一方、機会コストが低い社会では、関係が固定的で安定しているため、新たな関係を形成する機会が少ない。よって、関係流動性の高い社会と比較すると、他者一般からの評価を気にする必要がなく、幸福感に与える自尊心の影響力は弱いと考えられる。関係流動性の低い社会において将来に得られる利益を予測するのは、現在の関係から情緒的サポートなど何らかの利益を得ているか否かだと考えられる。以上の議論から、次の仮説を立てた。

仮説: 関係流動性の高い社会では、情緒的サポートよりも自尊心が幸福感の強い規定因となる。
           関係流動性の低い社会では、自尊心よりも情緒的サポートが幸福感の強い規定因となる。

この仮説を検証するために、まず、社会調査データから関係流動性が異なると考えられる、北海道(北海道大学)、青森県(弘前大学)、京都府(同志社大学)で調査を行い、幸福感の規定因を比較した。その結果、関係流動性の高い北海道で生まれ育った人は、関係流動性の低い東北地方で生まれ育った人よりも、幸福感に対する自尊心の規定力が強かった。また、東北地方で生まれ育った人は、北海道で生まれ育った人よりも、情緒的サポートの規定力が強かった。次に、個人を取り巻く身近な社会の関係流動性の認知を測定した尺度の得点の高い参加者と低い参加者の比較を行った。その結果、得点の低い参加者よりも高い参加者の方が、自尊心の規定力が強く、得点の高い参加者よりも低い参加者の方が、情緒的サポートの規定力が強い傾向が見られた。これらの結果は、仮説と一貫するものであった。

以上から、自尊心には、新たな対人関係の形成を後押しする機能があることが示唆された。


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