題目: 産業廃棄物不法投棄ゲームを用いた研究: 社会的ジレンマ状況における監視の効果

氏名: 清家 涼央

担当教員: 大沼 進


従来のゲーム理論では、社会的ジレンマ状況においてコストの問題を解決することができれば、監視・罰則の強化によって非協力行動が減少すると信じられてきた。一方、監視・罰則によらないでも協力行動を導くことが可能だとする先行研究も存在する。Dawes, et al (1990)は、協力行動を導くためには相互コミュニケーションが重要であり、コミュニケーションを通じた情報共有によって個人利益よりも全体利益を重視するようになり協力行動が導かれると論じている。そして、情報共有や全体利益に目を向けることが阻害されてしまっては、監視・罰則では協力行動は導くことができないと示唆している。本研究は産業廃棄物不法投棄問題を社会的ジレンマ状況として捉え作成された“産業廃棄物不法投棄ゲーム”を用いて、社会的ジレンマ状況における監視・罰則の効果を検討した。

“産業廃棄物不法投棄ゲーム”は、現実の産業廃棄物不法投棄問題への洞察から、主要と考えられる要素を抽出しいったん抽象化した上で、ゲーミング上に再具現化を試みたものである。プレーヤーは役割や利得の異なる5つの業者のいずれかに割り当てられ、産廃の取引を行い自己利益の最大化を目指す。プレーヤーには産廃の適正な処理や十分な委託金を払うなどの協力行動と、不法投棄や十分に委託金額を払わないなどの非協力行動がある。ただし、協力か非協力かの二者択一ではない。また、非協力行動の帰結までにはタイムラグがあり、ゲーム終了時に、産廃の不法投棄量、処理の程度に応じて環境を修復するための費用を徴収される。北梶(2006)は、監視機能として理解されている管理票制度をゲーム内に再現し、管理票による監視機能だけでは非協力行動の減少に効果がないことを示した。

本研究では北梶(2006)の研究で用いられたゲームの監視制度に変更を加え、監視・罰則の効果をさらに検討するために、3つの条件を設定しゲームを行った。①産廃処理業界内部に存在し、産廃を排出する排出業者が監視する排出監視条件。②産廃処理業界外部に第3者として存在する産廃Gメンが監視するGメン条件。③監視主体が存在しないものを統制条件とした。

ゲームの結果は、統制条件の不法投棄が3条件中最も少なく、Gメン条件とほぼ同程度であり、排出監視条件の不法投棄が最も多かった。これらの結果から、監視・罰則の強化によって非協力行動は減少しないどころか増加する場合もあることが示された。


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