題目: 集団生産場面における行動戦略についての実験研究: 報酬額は合理的行動の誘引となるか

氏名: 岩崎鷹祐

担当教員: 亀田達也


集団で生産作業をする場面では、コストを払って生産作業に協力する個体と、それにただ乗りする非協力個体が存在する。また、双方の比率が安定して出現することがさまざまな研究で観察されている(Kameda & Tamura, in pressなど)。これらの研究では実際の集団を用いて研究がされているが、集団全体を観察するというマクロな視点からの結果である。よってその均衡の発生が、どのような個人の行動によって現れるものかはよくわかっていない。

本研究では、集団生産状況に置かれた個人の行動を測定しマイクロレベルから均衡の発生を検証した先行実験の追実験を行った。先行実験の内容は集団内の協力者数によって個人にとって得となる行動が変化する利得構造を持った実験状況を設定し、参加者が利得を最大化する最適戦略をとるかどうかを検証した。本実験では、得られる利益の額と作業協力時に払うコスト額を二倍にして行った。これは経済学で、報酬額が上がることで、参加者間の行動の散布度が小さくなり、外れ値が減少するという知見が報告されていることに由来する(Camerer and Horgarth, 1999)。

実験課題として、宝探しゲームというコンピュータプログラムを作成した。本ゲームでは個人は一定のコスト額を払って集団に協力するか、コストを払わず集団の成果にただ乗りするかを自由に決められる。集団内の協力者数が増加するにつれ、協力行動により得られる限界利益が逓減する構造になっており、自分が協力する場合に見込める利益の増分が、自分が負担するコストを上回れば、協力行動をし、また利益の増分がコストを下回れば非協力行動をする。これが個人の利得を最大化する最適戦略となる。

実験の結果、先行実験と同様に協力者数が増えるほど、協力率を下げる参加者が最も多く観察された。本実験ではその下がり方がより顕著に見られた。しかし、依然として最適戦略からの逸脱が見られた。本実験で注目すべきは最適戦略からもっとも遠いと考えられる多数派同調者数が減ったことであろう。報酬とコストが二倍になったことで減少した同調行動者はCamererら(1999)の指摘する外れ値であったかはより詳しい検討が必要であると思われる。


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