題目: 怒りから見た人の行動類型: α-アミラーゼを用いた実験研究

氏名: 稲森律子

担当教員: 亀田達也


本研究は、生態学的環境と怒り感情の喚起との間の関連を調べることを目的とする。

現代における生態学的環境として、社会階層を想定することができる。高階層の人は個人資産などがバッファとなり、環境の影響を受けにくいが、低階層の人は十分な個人資産を持たないため、環境の変化を受けやすい。つまり、高階層の人は不確実性が低く、低階層は不確実性が高い生活環境にあるといえる(Kameda, Takezawa & Hastie, 2005)。人々の行動を適応という視点から考えるとき、不確実性を低減することは重要な問題である(亀田・村田, 2000)。低階層の人は余剰資産が少なく、生活に内在する不確実性に対し、集合的な解決以外に手段がないため、集団への依存度が高い。そのため、集団内で規範逸脱行為があると、大きな痛手を被ってしまう。そのため、低階層の人は規範の逸脱に対して敏感であると考えられる。

感情は人間が生き残るために、生態学的環境の特徴に適合した適応行動を、自動的に選択し実行させる役割(=コミットメント機能)を果たしてきた(Frank, 1987)ことを考慮すると、置かれた環境によって感情の発動が異なることが予測できる。秩序維持に関して、特に重要となるのは怒り感情である。社会的な規範の逸脱に対しては、集団への依存度が高い低階層の人がより強く怒りを感じるであろう(仮説①)。また、怒りの自分の利益の侵害に対し、相手に警告や罰や攻撃を与えることによって、自分の資源を搾取されるのを防ぎ、違反を繰り返させないようにする働きに注目すると、自分が直接被害を受けたときには、誰もが怒りを感じるだろう(仮説②)。

以上を踏まえ、ストレスに対して敏感に反応する唾液α-アミラーゼを怒りの程度の指標とし、実験室実験で、自分が直接被害を受けたときの怒りの程度と、自分は直接被害を受けていないが、規範の逸脱を見たときの、二つの場面における唾液α-アミラーゼの測定を被験者内要因で行ったところ、仮説とは異なり、どちらの場面においても高階層の人の方がより強く怒りを感じる傾向にあった。


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