題目:  最小条件集団を用いた日乳比較実験

氏名:  飯田奈央

担当教員:  山岸俊男


内集団バイアスは、人工的に実験室内だけで存在する集団、すなわち最小条件集団 (Tajfel, Billig, Bundy, & Flament, 1971)においても観測されている。この最小条件集団を用いたこれまでの研究から、内集団バイアスが生じるのは、集団内の相互協力を目指そうとする直観的な意思決定方略である「集団協力ヒューリスティック」の働きによることが明らかとなっている(神・山岸, 1997)。しかし、日本以外の国において、内集団バイアスが集団協力ヒューリスティックの働きによって生じるのか否かを検討した研究は少ない。Yamagishiら (2005) は日本とオーストラリアで比較実験を行い、仮説を支持する結果が得られたものの、最小条件集団ではなく国籍という実在の集団を用いたため、日常に存在する集団を喚起させやすく集団協力ヒューリスティックを活性化させやすい状況であった可能性がある。

そこで本研究では日本と日本以外の国での集団協力ヒューリスティックの働きを、最小条件集団を用いて比較した。具体的には、ニュージーランド人の参加者と日本人の参加者に対して神・山岸 (1997) の追試を行い、国ごとでPDにおける条件間の協力率の差に違いが生じるのか否かを検討した。条件は、内集団相互条件(参加者とその取引相手が内集団同士であることをお互い知っている)内集団一方条件(参加者は取引相手が内集団成員であることを知っているが相手は知らない)、外集団相互条件(参加者とその取引相手が外集団同士であることをお互い知っている)、外集団一方条件(参加者は取引相手が外集団成員であることを知っているが相手は知らない)、である。

実験の結果、両国において、相互条件では内集団でのみ協力率が上昇し(日本:39%、ニュージーランド:69%)、相互条件であっても外集団の場合は協力率に差はなかった(日本:28%、ニュージーランド:45%)。知識を一方的に有している場合は内外集団に関らず協力率に差はなかった(内集団一方の場合、日本:30%、ニュージーランド:42%、外集団一方の場合、日本28%、ニュージーランド:44%)。

これによって、両国において最小条件集団を用いた実験でも、内集団成員同士でありその知識を有している場合にのみ内集団バイアスが生じるという、集団協力ヒューリスティック仮説を支持する結論が得られた。


卒業論文題目一覧