題目: 汚染には嫌悪を、妨害には怒りを: 集団実体性と集団間感情の質的対応関係を探る実験研究

氏名: 洞口 晃

担当教員: 結城雅樹


本研究の目的は、集団実体性のタイプが異なることで、どのような種類の外集団脅威・感情が生起されるかを検討することである。更にもう一点、Ip, Chiu & Wan (2006) が見出した集団実体性の背後にある心理プロセスが日本でも再現されるかを検討することである。

Brewer, Hong & Li (2004)は、集団実体性には本質性と主体性の二つの側面があることを主張した。本質性とは、深く根付いている不変の性質の共通性から、集まっている人々を一つの実体と認知すること(共通特性集団と呼ぶ)であり、主体性とは、集まっている人々が共通の目標に向かって行動していると推測することから集団とみなすこと(共通目標集団と呼ぶ)である。これを踏まえてIp et al. は集団実体性知覚の手がかりが二種類あることを主張した。共通特性集団は身体的特徴の類似がその手がかりであり、共通目標集団は集団メンバー間の協調的集合行動がその手がかりとなる。Ip et al. はモンスターの映像を用いた実験によってこれを証明した。

一方、Cottrell & Nuberg (2005) は、外集団は多様で、その種類が違えば生起される脅威も違うと主張し、また、脅威の種類が違えば、生起される感情も異なることを見出した。

以上の先行研究より、横田・結城 (2006) は集団間脅威・感情の種類と、集団実体性知覚のタイプとの対応関係についての理論仮説を提唱し、その仮説をIp et al. の実験パラダイムを用いて実験を行った。横田・結城は、共通特性集団からは、その外集団のメンバーが自分たちとは異なる免疫機能や価値観・考え方を持つと推測するため、病原菌や違う価値観に汚染される「汚染系」の脅威や回避の行動意図を引き起こす「嫌悪」の感情が生起すると予測し、また、共通目標集団からは、その外集団メンバーの目標が自分たちの目標と葛藤する可能性があると考えられるため、目標が妨げられる「妨害系」の脅威そして攻撃の行動意図を引き起こす「怒り」の感情が生起すると予測した。実験の結果、横田・結城の予測通り、モンスターの体色が類似した共通特性集団からは汚染系の脅威、嫌悪の感情がより強く生起され、また、動きが統一された共通目標集団からは妨害系の脅威、怒りの感情が強く生起された。

本研究では横田・結城の実験に改良を加えて、脅威・感情と集団実体性の関係性が再現されるかを調べた。また、Ip et al. が見出した心理プロセスが日本でも再現されるかを調べた。

実験の結果、脅威と感情の対応関係については横田・結城の結果と概ね一貫する傾向にあった。しかし、脅威や感情に対する体色の類似の有無、動きの統一の有無の効果の強さの差は小さかった。この点に関しては実験デザイン・実験刺激の見直しが望まれる。また、心理プロセスに関してはIp et al. の結果と異なる結果が見られた。これはアメリカと日本の参加者がもつ文化的背景の違いによるものと考えられる。


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