題目: 対人関係と社会的カテゴリ: 二種類の社会的情報の有用性と社会的構造の関係

氏名: 李 超

担当教員: 結城雅樹


本研究の目的は、社会の関係流動性の違いによって、他者の行動を予測するために有用となる情報の種類が、どのように変化するかを明らかにすることである。

Gelfand, Spurlock, Sniezek, & Shao (2000) は、個人主義的なアメリカ人は、他者の行動を予測する時に、他者の個人化情報の有用性を高く知覚する一方、集団主義的な中国人は、他者の関係性情報の有用性を高く知覚することを示した。しかし、彼女らが「他者に関する社会的情報」として一括りにして扱った「対人関係」に関する情報(以下、対人関係情報)と「所属集団・社会的カテゴリ」に関する情報(以下、社会的カテゴリ情報)は、それぞれ異なる機能を持つ、弁別されるべき情報であると考えられる。対人関係情報は、予測対象の行動が予測対象を取り巻く対人関係のしがらみによって拘束されていることを示唆する情報であるのに対し、社会的カテゴリ情報は、予測対象が所属する集団やカテゴリのステレオタイプ(内的属性の集約情報: e.g., Demoulin, Leyens, & Yzerbyt, 2006)に関する情報であると考えられる(堀川・結城, 2006)。そして、関係流動性に着目すると、これら二つの情報は、それぞれ異なる社会において他者の行動予測に役立つことが予測されるのである。

関係流動性とは、人々が自分の意思でより良い対人関係・集団に移動することの容易さである。関係流動性が低いほど、現在の関係からの排斥に伴うコストが大きくなるため、個人の行動は取り巻く対人関係に拘束される。そのため、他者の行動を予測する際、その人を取り巻く対人関係情報が有用となるだろう。一方、関係流動性の高い社会の人々は、相対的に自身の内的属性によって行動しやすい。そのため、他者の行動を予測する際、その人の個人化情報、並びに内的属性の統計的集約情報である社会的カテゴリ情報が役に立つことが予測される。

上記の仮説を検証するために、本研究では、日本を関係流動性の低い社会、アメリカを関係流動性の高い社会として質問紙調査を行った。その結果、予測に反して、アメリカでは、対人関係情報は高く知覚された一方、日本では、個人化情報は高く知覚された。その一方、対人関係情報はより他者の協力予測に、社会的カテゴリ情報はより他者の能力予測に役立つ情報として知覚されるという、本研究の主張を支持する結果も得られた。予測を支持しない結果が得られた原因として、今回の対人関係情報に関する項目に問題があった可能性が挙げられる。今後の研究においては、よりそれぞれの情報が持つ機能に個別に着目し、仮説を再検証する必要があると考えられる。


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