題目:  住民の制度受容への手続き的公正感の効果 —東京都千代田区の「生活環境条例」を用いた実証的研究—

氏名:  鵜沼 匡司郎

担当教員:  大沼 進


 手続き的公正研究では当事者主義の方が糾問主義よりも選好されやすく、結果への満足度や公正感の評価が高くなること、また適切な情報公開や権威者への信頼などが手続き的公正感が満たされているかどうかを判断する要因になっていることなどが知られている。しかし従来の研究はほとんどが裁判を題材とし、実験室実験を元にした研究が多く、現実の制度導入場面を扱った研究はほとんどない。そこで本研究では現実に施行されている制度を取り上げ、手続き的公正感が制度受容に影響しているかどうかを検討した。

 本研究では東京都千代田区の「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」を取り上げた。この条例は空き缶や吸殻の路上への投げ捨て、歩行喫煙などを取り締まるものである。違反者には罰金(過料)が科せられるため適用対象となる喫煙者には益のない制度であり、また地域ごとに組織された市民団体が定期的にごみ拾いを行うことになっている。このように住民にとって非常に負担の大きい条例であるが、条例施行の開始前後に行われた世論調査では7割半の回答者が条例に賛成していた。こうした結果が生まれた要因を手続き的公正感の観点から検討するため、無作為抽出により千代田区民を対象とした質問紙によって調査を行った。調査にあたって次の3つの仮説を立てた。①制度受容に手続き的公正感が影響し、②適切な情報公開や権威者への信頼などが手続き的公正感の評価に影響するだろう。またこの条例への賛否は喫煙者か非喫煙者によって影響を受けることが予測されるが、手続き的公正感の決定受容への影響過程にはあまり差異がないことが示されていることから、③①・②の傾向は喫煙者か否かに関わらないだろうという予測を立てた。質問紙の回収率は48%(有効回答数301)と高かった。

 結果は仮説をおおむね支持するものであった。すなわち①制度の受容には内容の評価と手続きの評価が関わり②従来言われてきた手続きの評価の判断要因が手続きの評価に影響を及ぼしており③この傾向は喫煙者・非喫煙者間の違いはなかった。また事前の予測になかったものとして、制度が対象としている問題への嫌悪感や公共のモラルへの関心の高さが制度の受容に影響するという結果も得られた。これらの結果から、現実の制度導入場面においても、手続き的公正感が制度受容に影響していることが示された。


卒業論文題目一覧