題目:  路上駐輪の構造的・心理的要因に関する調査研究

氏名:  河野 由里子

担当教員:  大沼 進


社会的ジレンマ問題を扱った多くの先行研究では、社会的ジレンマに対する方略を環境的な要因を変える構造的方略と、個人の内的な要因に働きかける心理的方略の二種類のアプローチに分類して説明している。自転車の路上駐輪対策を例に見ると、構造的方略としては自転車の撤去・駐輪場の新設、心理的方略としては、看板やコーンによる啓発が挙げられる。しかし、この二分法による方略に路上駐輪を減らす効果があるかといえば、必ずしもそうでない場合がある。札幌駅周辺でも様々な対策をとっているが、路上駐輪問題はなかなか解消されない。

Platt(1973)は何が適切な強化子(reinforcer)となっているかを解明することが、社会的トラップ(social trap)への対応に有効だと述べている。路上駐輪問題についても、二分法ではなく構造的要因と心理的要因を一体的に捉えて、何が強化子となっているのかを考える必要がある。本研究では路上駐輪の要因を探るために調査した。

 調査1では写真撮影による観察調査を行った。その結果、建造物や歩行者の流れが、駐輪を誘うような空間を作り出していることが示された。また、従来の社会的ジレンマ研究の処方的アプローチでいわれてきたプロンプト法などがほとんど有効でないこと、それどころか、路上駐輪を誘発する手掛かりとすらなり得る場合もあることが示唆された。撤去は、罰として非協力行動の利益を下げると考えられているが、撤去によって一時的に路上駐輪が減っても、数日で元に戻ったり別の場所に移動するだけであり、有効な策となっていないことが示された。

 調査2では、実際に札幌駅周辺で駐輪場に停めた人と路上駐輪をした人を対象に質問紙調査を行い、547の有効回答が得られた。その結果、両者では駐輪場に関する知識、利用頻度、駐輪時間などが異なり、また、コスト評価、行動意図、社会規範など多くの変数の間に違いが見られた。さらに、重回帰分析及び判別分析の結果から、駐輪時間が短く、駐輪場の利用頻度が低く、駐輪場に停めるためのコストや駐輪場の盗難リスクが高いと感じる人ほど路上駐輪をしやすいことが示された。

 考察では、誘因構造とは限らない物理的な外界構造に着目しつつ、同じ外界構造でも主体(駐輪場利用者と路上駐輪者)により異なる認知を踏まえ、社会的ジレンマの処法として強化子を見いだす必要性が示唆された。


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