題目:  社会的ジレンマ状況における罰システムの直接効果・間接効果

氏名:  笠原麻衣

担当教員:  山岸俊男


本研究では、Yamagishi (1986) を踏まえ、罰 (サンクション) には直接効果と間接効果の2つの効果があると考え、両効果を分離することを目的とした実験を行い、両効果について検討した。

社会的ジレンマ状況では、個人にとって協力よりも非協力のほうが有利であるが、全員が非協力を選択すると、全員が協力を選択した場合より得られる利益が小さい。この社会的ジレンマ問題の解決に対し、先行研究により非協力を罰するサンクション制度が有効であることが示されている。

それではなぜサンクションが有効であるのか。本研究ではサンクションの効果には、直接効果と間接効果の2つがあると考えた。直接効果は利得構造を変化させることによって、協力率を上昇させる効果であり、間接効果は相手の協力行動への期待を高めることにより協力率を上昇させる効果である。しかし、多くのサンクションのある社会的ジレンマ研究では、この2つの効果は分離されず、両方を含む効果が、サンクションの効果として扱われてきた。

そこで、本研究は、直接効果のみが存在する条件 (直接条件) と、直接効果と間接効果の両方が存在する条件 (直接間接条件) 、両効果とも存在しない条件 (統制条件)の3条件を設け、直接効果と間接効果を分離することを目的として実験を行った。

実験では、3人1グループで1回限りの社会的ジレンマゲームを行った。統制条件の参加者は、サンクションが全く存在しない状態で取引を行った。直接条件の参加者は、3人のうち1人だけに罰を受ける可能性が存在する状態で取引を行った。他の2人は罰を受ける可能性がなく、サンクションについて全く知らない。よって、この条件では他者の協力行動に対する期待は、統制条件と同じであると予測されるため、サンクションの直接効果のみが存在する条件と考えられる。直接間接条件の参加者は、3人とも罰を受ける可能性が存在する状態で取引を行った。この条件では他のメンバーも罰を受ける可能性があるため、直接効果と間接効果が存在すると考えられる。

実験の結果、サンクションには直接効果と間接効果の2つの効果が存在し、特に間接効果は他者の協力の期待を媒介とすることが示された。また、予測はしていなかったが、男性より女性において間接効果が強く作用していたことが示された。


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