題目: 第三者による不公正是正行動に関する実験研究

氏名: 山口 真哉

担当教員: 高橋 伸幸


 人は、不公正な状況がある時、その不公正を是正しようと行動する。この不公正是正行動について、実験経済学の分野でthird party punishmentという視点からの研究が近年盛んである。third party punishmentとは、自己利益が全く得られないような第三者による不公正是正のための罰行動のことである。自己利益には全く関係がないにも関わらず、実際には実験においてそうした行動が観察される。また、不公正是正行動は単に不公正である、という結果のみではなく、その不公正を作り出した者の意図(悪意)の有無に基づいて起こるということが知られている。これらを踏まえ、本研究の目的は、自己利益に直接関係しない不公正是正行動は、行為者の意図(悪意)がある場合にのみ生じることを検証することである。

 方法としては、dictator gameにthird party punishmentを付加した形式で実験を行った。条件操作は「意図(悪意)の有無」で、「行為者が意図を持って不公正を作り出す条件」と「行為者の意図とは無関係に不公正な状況が生み出されてしまう条件」の2条件であった。被験者はdictator gameを観察し、そのゲームにおける分配者と受け手の間の不公正を是正するために自分の元手のうちいくらを使用するかを決定し、これを従属変数として測定した。仮説は、「third party punishmentは、行為者の意図(悪意)によって不公正な状況が作り出された場合にのみ起こる」とした。

 結果、罰使用額に条件差は見られなかった。罰行動の規定因を調べるために、事後質問の結果を分析したところ、罰行動は一般には、公正さの規範を遵守することや不公正を許容しないという意識、役割期待、他者への共感の3つにより規定されており、さらに意図あり条件では、他者が抱いている公正についての規範への期待に応え、規範を達成・維持する志向、意図なし条件では、分配者が止むを得ず取った行動により不公正な状況になってしまったことについて、分配者は良心の呵責を感じているだろうから、それを軽減するために罰してあげようという意識がそれぞれ罰を規定していた。つまり、意図の有無の罰行動の規定因が異なるということが明らかになった。よって、意図の有無を考えることはthird party punishmentの研究において重要であるということが示唆された。


卒業論文題目一覧