題目: 集団意思決定における共有表象の創発的影響−文化的認知課題を用いて−

氏名: 菅井 香苗

担当教員: 亀田 達也


 集団意思決定研究では、Davis(1973)の社会的決定図式モデルに基づき、メンバーの個人的な選好からグループの決定を集約モデルによって予測する手法がとられてきた。中でも、支持するメンバーがより多い選択肢がグループの決定となる多数派主導型モデルは、多くの場合集団意思決定をよく説明できるとされてきた。

 しかし、場合によっては多数派主導型モデルでは集団意思決定を説明できない「創発」と呼ばれる現象が起こることが観察されている。

 Tindale, Smith, Thomas, Filkins, & Sheffey (1996) は、創発が起きる背景について「共有表象」の影響を指摘している。メンバー間に共有される概念・信念・規範・知識などの認知的枠組みと適合する選択肢は、集団意思決定において他の選択肢より強い影響力をもつという考え方である。本研究ではこの考えを踏まえ、集団意思決定で創発が起こるかどうかに関する共有表象の働きを検討した。

 共有表象を含む課題として本研究では「文化的認知課題」を用いた。文化心理学の研究から、様々な課題について東アジア人に(欧米との対比において)特徴的な「文化的傾向」があることが示されており、またこの傾向はその文化の成員が有する思考的・認知的枠組みに基づくとされる。したがって、様々な課題における東アジアの文化的傾向が集団意思決定に創発的な影響をもたらすかどうかを調べる事で、共有表象が創発という現象とつながるのかどうかを検証できると考え、実験を行った。

 実験では、「東アジア人に典型的な回答」が先行研究によって同定されている様々な文化的認知課題をまず個人で回答させ、次に3人グループで討議の上回答させた。

 個人の回答から多数派主導型モデルによってグループの回答を予測し、実際のグループの決定と比較したところ、いくつかの課題で、多数派主導型モデルはグループの回答を近似せず、東アジア人に典型的な回答が予測より強くなされるという結果が得られた。共有表象によって創発的が引き起こされる事が部分的にとはいえ示唆される結果となった。


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