題目: 広く浅くか?狭く深くか?—人間関係における投資戦略の日米比較—

氏名: 下坂 真沙美

担当教員: 高橋 伸幸


 本研究の目的は、日本とアメリカという異なる社会に身を置く人々の人間関係に関する能力の違いを、機会コストという社会構造に適応的な「資源の投資戦略」が生み出しているという新しい観点から説明することである。

 内田(2003)や真島ら(2004)によって、日本人は関係維持能力に優れ、アメリカ人は関係開始能力に優れているという、人間関係に関する能力の違いが示されている。本研究では以下のような観点からこの日米差を説明する。日本のような機会コストの小さな社会では、既存の関係を維持するために関係内部に対し資源を投資する(関係特定的投資)ことが有利であると考えられる。よって日本人は、関係特定的投資を重点的に行い、その結果、関係維持のための能力が促進されるだろう。一方、アメリカのような機会コストの大きな社会では、広い範囲での関係形成を促進することに資源を投資する(一般的投資)ことが有利であると考えられる。従って、アメリカ人は一般的投資を重点的に行い、その結果、関係開始のための能力が促進されるだろう。この仮説を検討するために、本研究では、関係特定的投資行動と一般的投資行動に対する日米差を調べるために、シナリオによる場面想定法を用いた質問紙調査を行った。

 シナリオでは、回答者がある状況におかれた場面を提示し、一般的投資行動と関係特定的投資行動のどちらを選択するか、もしくは一般的投資行動をどの程度とろうと思うかを尋ねた。また、各々の行動を賢いと思う程度も尋ねた。

 結果、行動選択では、いくつかのシナリオで日本人よりもアメリカ人のほうが一般的投資行動をより選択するという予測通りの傾向が見られた。しかし評価レベルでは、いくつかのシナリオでアメリカ人のほうが一般的投資行動を賢いと思う程度が強いという予測に一致した結果が得られたが、一般的投資行動のみならず、関係特定的投資行動についても日本人よりもアメリカ人のほうが賢いと評価する程度が高いという、仮説に反する傾向が見られた。また、これらの日米差を、機会コストの大きさを反映していると考えられる一般的信頼によって説明することは出来なかった。

 本研究は、必ずしも全てにおいて仮説が支持されたわけではないが、人間関係に関する能力における「投資戦略」という新しい視点の提供を行った点で革新的な研究であったと言える。今回の研究の問題点を考慮した上での、今後の発展を期待したい。


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