題目: 非社会的文脈におけるRipple Effectの日米比較

氏名: 原 あゆみ

担当教員: 結城 雅樹


 本研究の目的は“Ripple Effect”(=ある出来事が周囲に波及的に与える影響についての意識) の文化差の存在を明らかにすることである。これまで、「西洋人は個々の行為者やその特性に、東アジア人は多数の行為者と状況要因に帰属しやすい」(Morris & Peng ,1994; Chiu, Morris, Hong, & Menon, 2000) という原因帰属の文化差や、「日本人はアメリカ人より場に対して多くの注意を向けており、環境から物を切り離して知覚することが困難である」(Masuda & Nisbett, 2001)、という注意の焦点の文化差が見出されてきた。そこで本研究では、これを原因ではなく結果の認知に適用し、同様の傾向が見られるかを検証した。

 仮説[1]日本人はアメリカ人に比べ、行為や出来事の結果がより広い範囲に影響を与えると思うだろう

 仮説[2]日本人はアメリカ人に比べ、末端の影響を大きく見積もるだろう

 まず研究1では、2種類(自動車事故/経営再建に伴うリストラ)の場面を設定したシナリオ質問紙を用いて、自己の行為の結果に対する責任や申し訳なさ等を日米で比較する調査を行った。その結果どちらのシナリオでも、[1]・[2] 両仮説を支持する結果が得られ、日本人はアメリカ人に比べて行動の結果がより広い範囲に影響を与えると考え、その末端の影響(責任や申し訳なさ等)を大きく見積もることが示された。

 研究2では、様々な非社会的場面が図示された質問紙を用いて、出来事の結果や原因の推測、可能性の推定等を日米で比較する調査を行った。これは、Masuda & Nisbett (2001) が示唆するように、文脈や領域によって特定されない一般的に備わったドメイン・ジェネラルな認知メカニズムに文化差が存在するのであれば、非社会的文脈においても社会的文脈と同様の文化差が見られると推測されるためである。その結果、非社会的な文脈にも関わらず、部分的にではあるが仮説[1]を、また全体として仮説[2]を支持する結果が得られ、日本人はアメリカ人に比べて出来事の末端の影響を大きく見積もっていることが示された。

 以上のように、結果の認知が日米で異なり、日本人はアメリカ人に比べて行動や出来事の結果が他に与える影響に気づきやすく、広範囲かつ複雑な影響予測を行うという、一貫した結果が研究1、研究2を通じて見出され、Ripple Effectの文化差の存在が示された。


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