題目: 「授かり効果」と類似性及び社会的文脈の関係

氏名: 福士 朝美

担当教員: 亀田 達也


 授かり効果(endowment effect)とは、自分が所有するものに高い価値を感じ、それを手放したくないと感じる現象のことをいう(Thaler, 1980)。授かり効果についてKahneman, Knetsch, and Thaler (1991)は、この現象が起こる原因の一つが損失回避にあると考えた。損失回避とは、同じ物であっても、その物を得ることによる効用よりも失うことに対する痛みの方が大きく感じられるという現象である。彼らによれば、あるものと別のものを交換するときに、ある品物を失うことから受ける損失が別のものを取得する効用よりも大きいと、主観的に損失が埋められず、品物を交換しないということになる、という。

 このように、授かり効果が生じる原因が損失回避であると考えると、手にしている品物と交換する品物の類似性が交換する頻度に影響するのではないだろうか。なぜなら、交換する品物同士の類似度が高ければ高いほど、主観的な損失が埋めやすく、結果として交換が起こりやすくなると考えられるからである。

 本研究は以上の考えに基づき、交換状況における類似性と授かり効果の関連性を示し、授かり効果が生じる原因が損失回避にあるとする説明の正しさを検証することを目標とした。

 実験は行動実験とシナリオ実験の二つから成り立っていた。このうち交換実験は実際の取引行動を検証するものであり、低類似性条件、高類似性条件間で交換のしやすさに差異があるかどうかを検討した。一方、シナリオ質問紙は被験者に類似性の高い品物、低い品物の両方が提示される取引場面を想像させて、類似性と交換のしやすさの程度の関係について検証するものであった。

 実験の結果、行動実験では品物の類似性による交換行動の差異は見られなかったが、シナリオ実験において、類似性が低い条件の方が交換拒否の度合いが有意に高い、つまり交換が起こりにくいという結果が得られた。このように行動実験とシナリオ実験で結果に違いが見られた。このことから、実際の行動とイメージ上の行動との間に差異があるということ、また、損失回避によって授かり効果が生じるという説明が妥当するのはイメージ上の交換行動であり、実際の行動ではないという可能性が示された。


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