題目: 当事者状況における資源分配−パレート原理の再考−

氏名: 深野 紘幸

担当教員: 亀田 達也


 本研究は、人々が望ましいと考える報酬の分配方法を検討した。従来の研究から、個人は平等や衡平などの「公正な分配」を好むという知見が安定的に得られている。これら研究の大多数は、望ましい分配方法に関して個人の選好を問うものであった。

 そこで田村・亀田(2004)は、グループの選好を問うため、3人グループに第三者としての立場から、望ましいと思う報酬の分配方法を評定させた。その結果、平等や衡平などの「公正分配」に対し、不公正であるがメンバー全員の報酬の絶対額が公正分配より高まる「不公正−パレート最適分配」の支持率が、個人に比べグループで相対的に高まった。

 しかし、報酬の分配はしばしば報酬を受け取る当事者たち自身によって行われる。このため、本研究では、報酬の分配を報酬の受け手自身が行うという「当事者状況」を想定し、この状況においても不公正−パレート最適分配の支持率が、個人に比べペアでより高まるか検討した。

 実験では、参加者はまず「アナグラム課題」を行い、その成績によって報酬額が決定された分配方法(平等・衡平・不公正−パレート最適の3種類)の望ましさを評定した。その後、参加者はペアとなって評定を行い、提示された3つの分配方法の中から、実験参加の謝礼となる方法を1つ選択した。これらの過程を踏むことで、報酬の受け手自身が報酬の分配を行うという状況を作った。

 実験の結果、報酬の受け手自身が報酬分配を行う当事者状況においても、不公正−パレート最適分配は個人に比べ、ペアにおいて強く支持された。この結果は、田村・亀田(2004)で論じられているように、個人の価値観がそのまま社会的な分配に反映しないこと(個人では公正分配が望ましいとされるがグループでの判断はそうではない)と、パレート原理が受け入れられる理由は、個人の中にではなく人と人との相互作用の中にあることを示唆している。また、先行研究とは異なり、当事者状況では、公正分配のうち「平等」よりも「衡平」の方がより望ましいとされた。これは、報酬分配プランを選択する際に、選択する立場の違い(当事者か第三者か)が重要な意味をもつという可能性を示唆している。


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