題目: 顔は心を映す鏡?:平均顔を用いた探索的研究

氏名: 浅見 杏子

担当教員: 山岸 俊男


 Cosmides ら(1989)は、社会的交換場面に遭遇したとき、相手の人間性判断を正確に行う能力‐見極め能力を人間が進化させてきたと主張している。しかし、実証研究によって彼らの議論を支持する証拠は数少ない、もしくは棄却するような証拠が挙げられている。Cosmidesらの議論が間違っているのか、それとも実験操作としてコントロールされるべき要因の問題なのだろうか。本研究では、実験操作としてコントロールされるべき要因の1つとして外見的魅力に焦点を当てる。外見的魅力をとりあげる理由は、外見的魅力に関して、実際には外見的に魅力的であるほど裏切り者の行動傾向を持つ(Takahashi et al, submitted)が、一般的にはそう思われていないという側面があるからである。

 本研究では、他者の行動傾向の見極めに外見的魅力が影響を与えているのかを検討することを第一の目的として、行動予測・相手の実際の行動・相手の外見的魅力の三者の関係を探索的に分析する。また第二の目的として、平均顔を用いて、他者の行動傾向の予測と外見的魅力度について検討する。平均顔とは、同様の行動傾向を持つ複数の個別写真を合成した写真のことである。平均顔を使用することが本研究の特色である。

 実験は顔写真を印刷した質問紙を用いて行い、評定者にインストラクションに従って回答させた。写真人物の行動傾向は、写真人物が事前に参加した実験によって前もってわかっているが、評定者には通知しない。

 実験の結果、個別の写真を用いた検討では、男性写真において魅力が高い人物ほど非協力傾向であるという結果が一部で得られたが、写真人物の行動傾向と愛他的に見えることには関係が見られなかった。平均顔を用いた検討では、評定者は、男性写真において非協力的な行動傾向を持つ写真から構成した平均顔のほうが魅力的で、かつ愛他的に見えると評定した。

 また、本研究では、相手の人間性を予測するときに間違ってしまうのは、必ずしも相手の外見的魅力にとらわれるからではないことがわかった。先行研究ではなぜ見極めができなかったのか、その理由を説明すべく外見的魅力をとりあげたが、外見的魅力はその理由にならなかった。見極め能力については、以降の研究が望まれる。


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