題目: 他者からの視線か否定的評価か?—日本人の認知的不協和生起要因の実験研究—

氏名: 有本 裕美

担当教員: 結城 雅樹


 本研究は、自由選択パラダイムを用いた実験を行い、日本人の認知的不協和がいかなる状況で生起するのかを調べることを目的とする。

 Heine & Lehman (1997) による研究では、認知的不協和の文化差が指摘された。彼らは自由選択パラダイムを用い、テスト結果をフィードバックすることで、参加者の自己肯定感を操作する実験を行った。その結果、相互独立的自己観の優勢な文化では、否定的フィードバックにより肯定的自己概念を脅かされた状況において、より強い認知的不協和が観測されるのに対し、相互協調的自己観の優勢な文化では、肯定的自己概念が脅かされるか否かに関わらず、認知的不協和が観測されないことが示された。

 一方、Kitayama, Snibbe, Markus, & Suzuki (2004) は、同じく自由選択パラダイムを用いた実験の過程で、参加者に社会的他者を意識させる操作を行い、相互協調的自己観の優勢な日本人が認知的不協和を示したことを報告した。

 以上の先行研究の知見に基づき、本研究では、相互協調的自己観を持つ日本人の肯定的自己概念が脅かされるのは、他者との関わりがある場合であるという仮説を立てた。そこで本研究では北海道の学生を対象に、Heine & Lehman (1997) のデザインに加え、参加者のテスト結果が参加者本人だけでなく他の参加者にも公開される条件を加えた実験を行った。

 予測としては、否定的なテスト結果が他者にも公開される場合には、否定的結果が自分にだけ知らされる場合や、肯定的な結果が他者にも公開される場合よりも強い認知的不協和が観測されることが考えられる。

 しかし実験の結果は予測と一貫せず、統制条件と否定的な結果が自分にだけ知らされる条件下で認知的不協和が観測され、それ以外の条件下では観測されなかった。これはむしろ欧米人の示すパターンに似ており、これは北海道の人は北米人と同じ心理傾向があるとするKitayama, Ishii, et al. (2004)の主張と一致する。また、一人で実験に参加した者と友人を同伴した参加者とを比較したところ、全ての条件下において、前者がより強い認知的不協和を示すという結果が得られた。このことから我々は、参加者は知り合いが側にいる状況では、彼らからの慰めや支え合いを期待し、それによって自己肯定感が高まった結果、認知的不協和が観測されなかったと考察した。


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