題目: 他者表情の検出に関する研究: モーフィング画像を用いた検討

氏名: 田代暁子

担当教官: 亀田達也


 本研究の目的は、感情伝染という現象の存在を確かめることにある。田村(2003)は、集団に共通の危険が存在する場合に、他者の警戒行動を見て自らも警戒行動をとる現象、つまり警戒行動の転移が安定して存在することを確認し、さらに警戒行動の転移と不安感情の転移との間に関連がある可能性を示した。本研究では警戒行動の転移現象が感情伝染によって引き起こされることを検証する。そこで警戒行動の転移と感情の伝染との関係を確認するため、他者の警戒行動を見て自らも警戒行動に移る頻度(警戒行動転移頻度)の高低によって、他者の感情状態への敏感さに差異が見られるかどうかを検討する。

 実験では、他者感情への敏感さを測るための刺激として、ニュートラル表情から喜び・悲しみといった7種類の感情のいずれかを表出した表情に徐々に変化するモーフィング画像を使用した。被験者は予め表示した感情名と刺激の感情との一致・不一致を判断し、正解率や反応時間を測定した。また並行して、感情を表出した他者を見た際の生理的反応の測定や、他者表情の感情状態の評定、さらに被験者自身の感情表出などに関する事項を事後質問紙で回答した。

 分析では田村(2003)の実験での警戒行動転移頻度の高低によって、結果に差異が生じるかどうかを検討した。その結果、高警戒転移群では低警戒転移群よりも他者感情に敏感であり、特に驚き表情でその傾向が顕著に見られた。具体的には、モーフィング表情の感情判断課題において、高警戒転移者は全般的に回答するまでの時間が早い傾向が見られ、驚き表情の刺激に対しては正答率も有意に高かった。また、刺激に早く反応する者ほど驚き表情を見た際の生理的喚起が大きいという負の相関も見られた。さらに他者表情の感情を評定する課題でも、高警戒転移者は驚き表情を正しく認識する傾向が見られた。自らが感情を表出する度合いも高かった。

 本研究の結果は、警戒行動の転移と、驚きを始めとした感情との関連を示唆するものであった。このことから警戒行動の転移時に驚きという感情が重要な役割を果たしていると考えられ、感情伝染が存在しているということを支持する結果が得られたと言える。


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