題目: 集団間競争プライミングが相互監視・制裁行動および協力行動に与える影響

氏名: 谷あつ子

担当教官: 結城雅樹


 本研究の目的は、集団間競争の認知が、社会的ジレンマ状況における内集団への協力行動に与える影響を検証することである。

 社会的ジレンマ(以下SDと呼ぶ)とは、協力より非協力のほうが個人にとって有利な結果をもたらすにも関わらず、全員が個人的に有利な非協力してしまうと、誰にとっても望ましくない結果に陥ってしまうことである。もし人間が合理的な存在であれば、周りの内集団メンバーが協力する保証がない場合、内集団に対して協力はしないだろう。しかし、これまでのSD研究における数多くの知見では、常に3割〜5割の協力率が得られている。このような自分だけが損をしてしまうかもしれない状況で、自己犠牲を払って内集団に協力する動機とはどんなものだろうか?

 SDで内集団への協力を引き出すには、個人の動機付けを変化させる「個人的アプローチ」と利得構造を変化させる「構造的アプローチ」があるという(Messick & Brewer, 1983)。本研究では「集団間競争」をそれら両側面から検討し、「集団間競争」がSDでの内集団への協力を引き出すキーになることを示すことが目的である。

 また、集団間競争を理論的に考える際に、社会的アイデンティティ理論(以下SITと呼ぶ)をSDで協力を引き出す説明原理として採用する。SIT/SCTによれば、人はカテゴリー化されることにより、脱個人化のプロセスから自己を集団の一部として知覚、そして集団間競争において内集団(=自己)の価値を高めるために内集団協力を行うという。

 これらの知見および理論より、集団間競争を認知することによって、認知しない時よりも内集団に対し、より協力的になるだろうという仮説をたてて、1ショットのSDを用いた実験により検証した。具体的には、集団間競争の認知をプライミング法によって操作し、SDにおける内集団への協力度を調べる実験を行った。実験の結果、仮説をおおむね支持する結果が得られた。さらに、集団間競争を認知したとき、外集団との差の最大化動機に基づいた協力がみられた。したがって、SD状況で、集団間競争の認知は内集団の協力を引き出すことが示された。この結果について、社会的アイデンティティ理論における集団自尊心仮説、日本人だから協力しよう仮説、Terror Management Theory からの解釈を考える。


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