題目: 交換の機能: 交換形態が社会的ジレンマにおける行動に及ぼす影響

氏名: 中野和樹

担当教官: 高橋伸幸


 社会的交換理論では、交換関係は二種類に分類できる(Ekeh, 1974)。二者間の資源の直接交換である限定交換と、二者間の直接の資源のやり取りを含まない一般交換である。Ekeh(1974)らは、限定交換は情緒依存的で崩壊しやすく、成員間の相互信頼を高めることはないとしている。それに対し一般交換は、成員間の相互信頼を高め、崩壊しにくく、さらに社会を統合する機能がある、としている。さらにGillmore(1987)は、一般交換にはgroup solidarity(グループの連帯、団結)を高め、集合行動を促進する機能があると主張している。solidarityが高まると自分の利益を犠牲にしても集団に対して協力したい、あるいはその集団に好意を抱いているために協力したいと思うため、集合行動が促進されると考えられる。しかし、限定交換のみを用いたMolm et al.(2000, 2003)の研究では、交渉のない交換の方が、交渉のある交換より他者への信頼感を高めることが示唆された。一般交換は交渉のない、一方的に資源を与える交換であるため、交換形態の違いと交渉の有無が混交されてきた可能性が考えられる。

 そこで本研究では、集合行動の促進に重要なのは「一般交換−限定交換」という枠組なのか、それとも交換における交渉の有無なのかを検討するための実験を行った。実験では集合行動の指標として社会的ジレンマ(以下SD)を用い、交換には一般交換、交渉なし限定交換、交渉あり限定交換の3条件を設けた。実験はSD一回目→条件別の交換20試行→SD二回目という流れで行われた。Ekehらの主張から仮説1として「集合行動は一般交換では促進されるが限定交換では促進されない」を、Molmらの主張から仮説2として「集合行動は一般交換と交渉なし限定交換では促進されるが交渉あり限定交換では促進されない」を導いた。

 結果は一般交換、交渉なし限定交換条件ではSDにおける協力率が高まり、交渉あり限定交換条件では協力率は高まらないというものであり、仮説2が支持された。質問紙の結果から、一般交換、交渉なし限定交換条件で集合行動が促進されたのは、信頼感が高まったためであることが分かった。これはMolmらの主張と一貫する。しかし、一般交換条件でGillmoreの主張のようにgroup solidarityが高まったという結果は得られなかった。


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