題目: 認知指標を用いた日米比較実験

氏名: 森川佳代

担当教官: 山岸俊男


 1990年代より、文化相対主義の考え方に基づいて、文化心理学者たちは文化による認知システムの違いを主張してきた。その中でも代表的なものが古代ギリシア文化(欧米文化)と、古代中国文化(東アジア文化)を対比させるNisbett(2003)の理論である。古代ギリシア文化を背景にもつ文化圏の人々は分析的認知を行い、古代中国文化を背景にもつ文化圏の人々は包括的認知を行うとされている。さまざまな認知指標を用いた比較文化実験も数多く行われ、Nisbettの理論を裏付ける結果が数多く報告されている。

 本研究では、2種類の認知指標を用いた比較文化実験を日本人とアメリカ人を対象に行った。2つの認知指標が分析的あるいは包括的な認知システムを測定する指標として妥当な指標であれば、日米両国において2つの指標の間に相関関係が見られると予想した。相関のみでは妥当性は保証されないが、相関関係が表れなかった場合には、2つの指標が同一の概念を測定していないことが示唆されるであろう。本研究では、認知指標として、Norenzayan, Smith, Kim, & Nisbett (2002) の類似性判断課題と、 Kuhnen, Hannover, & Schubert (2001) の埋め込み図形課題を使用した。類似性判断課題とは、図形のカテゴリー化を行う際に、家族的類似性にもとづいて判断するか、それとも、全ての図形に共通する特定の規則を見つけ出して判断するか、という判断方略の差を測定するものである。埋め込み図形課題とは、複雑な図形の中から単純な図形を見つけ出す課題である。

 実験の結果、各指標の平均値を日米で比較すると、類似性判断課題、埋め込み図形課題ともに先行研究と一貫した結果が得られたが、2つの指標の間には強い相関関係は認められなかった。特に、日本人の間では2つの課題はほぼ無相関であった。また、両課題ともに、アメリカ人の方が日本人よりも反応時間が長いという予測せざる結果が得られた。反応時間を共変量とした投入した共分散分析の結果、どちらも課題に関しても国籍の効果が消失した。このことから、国籍の効果は、反応時間を媒介として、認知指標に影響を与えていることが示唆される。


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