題目: 表情転移における内外集団ラベリングの効果

氏名: 小貫山 竹彦

担当教官: 亀田達也


 表情転移とは他者が表出した表情を同じように自分も表出してしまうという現象である。表情転移現象は表情と感情研究の分野で多くの報告例がある。(Lundqvist & Dimmberg, 1995など)。先行研究から表情転移は、閾下に表情写真を提示しても起こること、社会的な要因の影響を受けることなどが知られている。今日の表情転移研究での主な論点は、表情転移が感情伝染など自動的なレベルで何らかの機能をもつものなのか、それとも意識的な認識や社会的な文脈と関係するレベルにおいて機能を持つ現象なのかという点にある。

 Herrera, Bourgeois & Hess (1998)と Bourgeois & Hess (2001)は後者のレベルに焦点を当て、表情を表す人物が内集団成員であるか外集団成員であるかという条件を設けて実験を行った。しかしその結果は混沌としており、表情表出者が内集団であるか外集団であるかが表情転移に与える影響はよくわかっていない。

 そこで本実験では表情転移における内集団・外集団の効果を検討するため、表情刺激の写真人物が日本人であるか中国人であるかというラベリングによって内外集団の条件を操作し実験を行った。Bourgeoisらの議論から「日本人条件においてのみ表情転移が見られる」という仮説を導いた。表情転移は刺激写真をモニタ画面上で表示し、刺激提示時の参加者の表情筋活動を表情筋電図を測定することで調べた。表情筋は上唇鼻翼挙筋、大頬骨筋、眼輪筋、皺眉筋、の4つの部位を測定した。表情刺激として使った表情写真は喜び、怒り、悲しみ、嫌悪の4つの表情である。

 その結果、表情転移現象は中国人条件では怒り表情と喜び表情で確認され、日本人条件では嫌悪表情において確認された。表情転移の程度の比較では喜び表情を提示した際の男性被験者においてのみ、中国人条件の参加者ほうが日本人条件の参加者よりも大きな表情転移を示したという結果が見られた。

このように本実験の結果からは「日本人ラベリング条件においてのみ表情転移が確認される」という仮説は支持されなかったが、日本人を被験者とした実験でも表情転移が起きることが示された。また、表情転移現象は文化や人種の影響を受けるものであるという可能性が示唆された。


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