題目: 日本における個人−集団不連続性効果の検証

氏名: 赤石 薫

担当教官: 結城雅樹


 本研究の目的は、頑健に欧米で示されている個人−集団不連続性効果(葛藤状況において、個人より集団の方が競争的であること)が日本で見られるかどうか検証することである。日本の個人−集団不連続性効果についての予測は、Yuki (2003) で主張されている日本人の集団認知から導かれる日本人の集団行動を考慮して立てる。

 Yuki (2003) では日本人は集団間関係よりも集団内関係を重視すると主張されている。このことから、集団間関係を重視しない日本人は相手集団の競争性に対し、それほど恐れ (fear) を抱かないと考えられる。そうすると集団間関係を重視するアメリカ人よりも、日本人は相手集団に対し非競争的に振舞う可能性がある。

 以上のことをふまえて予測を立てた。
予測 日本では、PDGにおいて、個人と集団で大きな差が見られないだろう。

 まず、日米で個人間関係・集団間関係の競争性についての信念を調べる予備調査を実施した。その結果、アメリカ人よりも日本人の集団間競争信念が低かったため、この結果はYuki (2003) の仮説を支持した。

 次にInsko et al. (1990) の実験手続きを元に、10試行連続の囚人のジレンマゲームを使って個人間相互作用(1対1)と集団間相互作用(3対3)を比較する実験を行った。
 その結果、個人−集団不連続性効果が見られた。先行研究と比較すると(1)先行研究と同程度の個人−集団不連続性効果が見られため、予測は支持されなかった。また、先行研究と比較して(2)集団の競争性は先行研究と同程度であった。(2)より、Yuki (2003) から導かれる、日本人はアメリカ人よりも相手集団に対し非競争的に振舞うという仮説は支持されなかった。

 結果の解釈として、(2)について、予測のような行動を集団間状況での行動の「初期設定」として捉え、今回のようなPDGにおける競争的な行動は特異的なものとして捉える解釈が考えられる。この解釈では、予備調査の結果を「初期設定」としての行動パターンに対応すると考えられるため、予備調査の結果とも整合的と言える。(1)については、協力選択時と競争選択時の利得の差がInsko et al. (1990) よりも大きいマトリクスを使ったため、本実験の競争率が全体的に底上げされたという解釈が考えられる。また日本においてもInsko et al. (1990) で主張されている仮説が当てはまることが解釈として考えられる。


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