題目: 相互協力関係を可能にする心理特性

氏名: 硎 大輔

担当教官: 山岸俊男


 誰かと相互協力関係を築こうとした時に、相手となる人物が、協力的な人物なのか非協力的な人物か簡単には判別できないという問題が存在する。非協力的な人物と判断できずにいると、大きな不利益を被ることもあるだろう。この問題を解決するためには他者が信頼できる人物かどうかを正確に判断するという能力が必要不可欠となる。この他者の信頼性を判断するという能力に関して、他者一般に対する信頼のデフォルト値である一般的信頼という心理特性と、想像上で自分を架空の状況の中に移し込む傾向を測定した共感性の中の想像性因子という心理特性に関連があることを示した先行研究がある。これらの先行研究を基に、他者の信頼性を判断する際のメカニズムを検証することが本研究の目的である。

 本研究では、6人を1グループとする集団実験を行った。まず、参加者に1回限りの囚人のジレンマゲームを行わせたが、その相手は参加者に知らせずにゲームにおける選択を決定させた。そして、グループ内の他の参加者が先の囚人のジレンマゲームにおいて相手が誰か分からない状況で協力的な行動と非協力的な行動のどちらを選択したかを参加者に予測させ、その予測の正確さを測定した。

 この実験の結果、他者の信頼性を判断する能力と一般的信頼、想像性との間に統計的に有意な相関は見られなかった。この結果は先行研究と一致していない。先行研究と一致した結果が得られなかった原因として、協力率が先行研究と異なり低かったことが考えられる。これは本研究では囚人のジレンマゲームにおいて参加者に支払われる報酬がもらえなく可能性があり、そのため参加者が非協力行動を選択する傾向が強くなったと推測される。

 ただ、他者の信頼性を判断するメカニズムに関して次のような可能性が示唆された。囚人のジレンマゲームにおいて協力行動を選択した参加者と非協力行動を選択した参加者に関して調べたところ、協力行動を選択した参加者においては他人に対して同情や哀れみの感情を感じるという共感性の中の同情因子という心理特性に、非協力行動を選択した参加者においては想像因子との間に相関関係が見られた。このことから、自分が選択した行動に応じて、つまり達成しようとする目的に応じて、他者の信頼性を判断する能力において異なるメカニズムが存在するという可能性である。


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