題目: 集団間競争が協力行動のパターンと心理プロセスに与える影響

氏名: 高橋卓也

担当教官: 結城雅樹


 本論文の目的は、集団間文脈の競争性の違いが、異なる心理プロセスを通じて異なるパターンの内集団ひいき行動を引き起こすという結城・横田(2001)、横田・結城(2002)による仮説を検証することである。

 内集団ひいき研究では、最小条件集団実験(MGP)における、内集団ひいき行動が生起するプロセスを説明する原理として、2つの有力な理論が提唱されている。1つはTajfel & Turner (1986)・Turner et al. (1987)による社会的アイデンティティ理論(SIT)/自己カテゴリー化理論(SCT)によるもので、人は社会的カテゴリーによって自己をカテゴリー化することで、自己概念の脱個人化(集団=自己)が起こり、自己を集団の一部と知覚する。よって他の内集団成員をひいきする行動が自分自身をひいきすることと同義となるために、内集団ひいきを行うとしている。一方、Yamagishi, Jin, & Kiyonari (1999)による閉ざされた一般的互酬仮説(BGR)によると、MGPにおける“隠された”他の内集団成員との相互依存性が内集団ひいきの源泉であるとしている。

 このいずれの心理プロセスが活性化するかは、集団間文脈の競争性の程度によって規定されることが、いくつかの研究から示唆されている。そこでは、集団間競争知覚が高い場合には集団メンバーの情報をカテゴリー単位で処理するプロセスが、一方、集団間競争知覚が低い場合には個人単位で情報処理するプロセスが用いられることが示されている。ここで集団間競争時に観測されたカテゴリー単位の情報処理プロセスは、SIT/SCTが想定した認知プロセスと一致し、一方、集団間に競争がない時に観測された個人単位の情報処理プロセスはBGRが前提としている認知プロセスと一致している。すなわち、集団間競争性の認知が異なれば、内集団ひいきが生じてくる心理プロセスも異なってくるのではないだろうか。

 以上の仮説を検証するために、集団間競争の認知、および集団内相互依存性を操作し、集団認知のパターンと内集団ひいき行動の出現パターンを比較する実験を行った。具体的には、集団間競争の認知がある場合には、SIT/SCTが述べるとおり、内集団は実体として知覚され、内外集団の差を最大化したいという動機から内集団ひいきが行われ、集団内相互依存性の有無に関係なく内集団ひいきが観測されるが、集団間競争の認知がない場合には、内集団は独立した個人の集まりとして認知され、BGRで予測されているように相互依存性が存在する場合のみ、内集団を優遇する内集団ひいき行動が見られることが予測された。しかし、実験の結果から、この予測を支持する結果は得られず、上記の2変数の操作は、集団認知のパターンにも、内集団ひいき行動のパターンにも、一貫した影響を与えなかった。予測どおりの結果が得られなかった原因として、実験の手続き上の問題点、さらに理論そのものに含まれる問題点の可能性などを多面的に考察した。


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