題目: コーディネーション問題に関する実験研究

氏名: 園部嘉門

担当教官: 山岸俊男


 本研究の目的は、通常の繰り返しのある「囚人のジレンマ(以下、PD)」では、コーディネーション問題によって相互協力の達成が阻害されていることを検証することである。コーディネーション問題とは、2人のプレイヤーが協力しあうことを望むにも関わらず、互いにうまく行動を調整できない問題である。

 これまでのPD研究からは多くの研究結果が得られている。プルイットとキンメル(Pruitt & Kimmel, 1977)は繰り返しのあるPDで相互協力が達成されるための条件を「目標期待理論」として表した。また、相互協力を達成させるためのプレイヤーの行動パターンとして、相手の選択を単純に反復する「応報戦略」(Axelrod, 1984)もよく知られている。

 しかし、通常の繰り返しのあるPDで相互協力が達成されることは、これらの知見から予測されるよりも困難である。その理由の1つとして、2人のプレイヤーが同時に選択を行うことで生じるコーディネーション問題が考えられる。一方、2人のプレイヤーが交互に選択を行う順次PDでは、2人の行動は調整されるため、コーディネーション問題は生じない。そこで、繰り返しのある同時PDと繰り返しのある順次PDの比較実験を行ない、本研究の目的を検討した。仮説は「順次PDではコーディネーション問題が生じないので、同時PDよりも協力率が高い」である。

 本研究では、2つのPDを単純に比較する第1実験と、各PDに非協力フィードバックを挿入した第2実験を行った。非協力フィードバックとは、プレイヤーの実際の選択に関わらず、「相手は非協力を選択した」という情報のエラーのことである。この非協力フィードバックよって、どちらのPDでも相互協力が達成されない状況を作ることが可能になる。

 第1実験では、同時PD条件と順次PD条件でともに平均協力率が高くなり、条件間で協力率に差は生まれなかった。その原因として、交換型のゲーム形式を用いたため天井効果が起こったことが考えられる。しかし、第2実験では、非協力フィードバックによって条件間で平均協力率に差が生まれ、順次PDでは相互協力が一時的に崩れても協力率が回復しやすいことが明らかになった。よって、本研究の仮説は支持され、繰り返しのあるPDではコーディネーション問題によって相互協力の達成が妨げられていたことが明らかになったのである。


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