題目: 裏切り者は見極められるか? —顔写真を用いた“裏切り者検知”の探索的研究—

氏名: 岩嵜 果

担当教官: 山岸俊男


 進化心理学者のCosmidesによれば、人間は“裏切り者”を検知するモジュールを進化させてきたと考えられている。「裏切り者検知」能力が人間に実際に備わっているかどうかを実証する研究のなかで、Mealeyら(1996)やOda(1997)は、顔の再認課題において非協力者とラベル付けされた人の顔は、協力者とラベル付けされた人の顔よりも記憶されやすいという結果を示した。下間ら(2002)では上記のようなラベル付けをしない再認課題においても、実際にPDで非協力を選択した人の顔の方がHit率・Fa率がともに高いという結果を得ている。この結果は、非協力者の顔に何らかの特徴が存在しており、人間は協力者と非協力者を瞬時に区別している可能性を示唆している。ただしこれらの研究は、用いられている実験課題が再認課題であり、実際に裏切り者検知能力を実証している研究とは言えない。本研究の目的は、これらの先行研究を踏まえ、裏切り者検知能力の理解を進めることにある。まず、実際に顔写真を見ただけでその人物が裏切り者であるかを検知できるかどうかを検討する見極め課題を行なった(研究1)。それと同時に、先行研究の結果が妥当なものかどうかを検討するために再認課題のレプリケートを行なった(研究2)。

 研究1では、被験者にPDを実際に経験した人物の顔写真を見せ、その写真人物がPDにおいて協力と非協力のどちらを選択したかを正確に予測することができるかどうかを検討した。その結果、正解率はチャンスレベルで得られる値の範囲内であり、顔写真を見せただけでは協力者と非協力者を区別することはできないという結果が示された。

 研究2では、下間らが実施したものと同様の再認課題を行なったが、課題に用いられる刺激写真は新たに撮影されたものであった。下間らが用いた写真はPDの決定直後に撮影された写真であったが、PDの直後には非協力を選択した罪悪感が表情に表れ、その表情が記憶に残りやすいという可能性が示唆されるからである。この問題を解消するために、本研究ではPDの決定直後の写真と、PDを行った後1週間以上経過した写真を撮影した。これらの写真を用いて再認課題を行った結果、PD直後の写真とPD後1週間以上経過した写真の両条件で、非協力者の顔の方がHit率・Fa率ともに高いという結果は得られず、下間らの結果は再現されなかった。


卒業論文題目一覧