題目: 重要なのは敵か味方か? —アメリカの集団間志向と日本の集団内志向との比較—

氏名: 伊藤瑞恵

担当教官: 結城雅樹


 本研究の目的は、集団愛着心の文化差を説明する方法として、集団間志向・集団内志向という2つの概念からのアプローチを提案することである。具体的には、アメリカのオハイオ州立大学と北海道大学の学生を対象に質問紙調査を行い、アメリカでは集団間志向が、日本では集団内志向がアイデンティティ・忠誠心の規定因となっていること、また、その傾向は集団サイズによっても異なることを検証した。

 仮説は大きく以下の3点にまとめられる。1)日本では、アメリカに比べて、集団内志向が集団間志向よりも相対的に重視されるだろう。2)大集団においてアメリカでは外集団との比較が、日本では内集団の関係性が、内集団へのアイデンティティ・忠誠心の規定因として重要だろう。3)小集団においては、日米共に内集団の関係性がアイデンティティ・忠誠心の規定因として重要だろう。

 調査の結果、仮説を概ね支持する結果が得られた。まず仮説1)に関して、仮説を完全に支持する結果が得られた。アメリカの集団では、集団間への関心が、日本では集団内への関心が相対的に高いことが示された。

 次に、仮説2)に関しては、完全とはいえないながらも、おおむね仮説を支持する結果が得られた。アメリカの大集団では、集団間志向のみがアイデンティティ・忠誠心に対し高い説明力を持っていたのに対し、日本では、集団間志向・集団内志向の双方がアイデンティティ・忠誠心に対して説明力を持っていた。

 最後に、仮説3)に関しても、完全とはいえないながらも、おおむね仮説を支持する結果が得られ、日米共に集団内志向が小集団へのアイデンティティ・忠誠心に対し説明力を持っていた。ただし、日本では、集団間志向の説明力も高かった。

 以上の結果から、アメリカの大集団では集団間志向が、日本の大集団では集団内志向がアイデンティティ・忠誠心の規定因としてより重要であること、また、小集団では日米共に集団内志向がアイデンティティ・忠誠心の規定因として重要であることが示された。集団間志向・集団内志向という2つの概念は、集団への愛着心の文化差を探る際に、重要な手がかりになるだろう。


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