題目: 不確実状況における情報感受性の適応基盤研究

氏名: 石倉奈津美

担当教官: 亀田達也


 本研究は、情報への感受性に関する人間の個体差に注目し、その存在理由・意味を適応の観点から考察したものである。

 我々人間には数々の身体的・心理的個体差が観察されている。身体形質の個体差は身長・体重・血液型・性別、あらゆる形質に観察され、また心理形質の個体差も怒りっぽさなど感情という曖昧なものから、理系文系などのわりと判断しやすいものまで様々な形をとって存在している。これらの差異は何らかの意味があって存在しているものなのだろうか。

 現在観察されるあらゆる現象は、進化の過程において、不確実な状況におかれた個体の生存にとって有効機能したものであるという考え方がある。適応論である。ここでは、各個体が自身にとって最も良いと考えられる生存戦略をとった結果、集団内における生存戦略(群)が一定比率に均衡した状態こそが「適応」だと考えている。この適応観を用いて、個体差が存在する意味を探ろうというのが本研究の目的である。

 本研究では特に心理形質の差異である“情報感受性”に着目した。警戒行動(刺激に対する反応)を尺度に、情報への敏感さに見られる個体差を、進化シミュレーションと集団心理学実験の2つのアプローチを用いて適応と言う観点から検討したものであり、2つの検討課題を用意した。まず1つ目、①情報感受性にも混合ナッシュ均衡は存在するのか。は進化シミュレーションへの検討課題とし、2つ目、②実際にヒトは情報感受性において多型均衡を生じているのか。は集団心理学実験への検討課題とした。

 進化シミュレーションで、情報感受性における個体差が持つ適応的意味の可能性を理論的に検討した結果、進化した個体の警戒戦略が混合戦略であることは確認されたが、均衡の出現は可能性の域に留まった(パラメータの設定に原因があると考えられる)。

 集団心理学実験では、実際の人間には情報感受性における個体差が存在し、警戒戦略が多型均衡を生じる可能性を見出せる箇所があったものの、こちらも検討課題に対して明確な答えは返せなかった。

 本研究における2つのアプローチは、可能性の域に留まるものの、検討課題に対して肯定的な結果を示したと考えられる。よって、人間の個体差は、不確実な状況における各個体の適応の結果生じているのもであるという結論を導いた。


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