題目: 「たった一人の知人」の存在は外集団への信頼をもたらすか?:内外集団区別の強固性に関する日米比較研究

氏名: 福屋智子

担当教官: 結城雅樹


 本研究の目的は、集団行動の重要な要素の一つである「信頼」が成立するプロセスの日米差を解明することにより、アメリカ人と日本人にとっての「集団」の意味の違いを比較検討することである。

 まず、集団の捉え方に関して「自己カテゴリー化モデル」と「ネットワークモデル」という二つのモデルがある。前者では、人々は集団間関係に注目し、集団は弁別性のない個々により構成された一枚岩のように表象される。一方、後者では、人々は集団内関係に注目し、集団内の個々はネットワークで繋がった弁別的な存在として捉えられる。ここで、比較文化的視点から、自己カテゴリー化モデルは欧米に、ネットワークモデルは東アジアに、より当てはまるという主張がある(Yuki, 2002)。本研究では、この仮説を検証するため、外集団メンバーとの間に対人関係が想定できることによって、内外集団メンバーに対する信頼の差異が消滅するか否かを日米間で比較するための実験を行った。実験では、「外集団メンバーで、その外集団には知人がいる」という信頼のターゲット人物を設定し、内集団に対するものと同程度の信頼が生まれるか否かを調べた。

 実験は、分配者と被分配者がペアになって行う分配委任ゲームを用いた。分配者が、自分と被分配者との間で一定額のお金を分配し、被分配者は、実験報酬としてその分配額をもらうか、固定金額をもらうかを選択した。ここで、被分配者が報酬を分配者に委任するかどうかで、被分配者の分配者に対する信頼が測られた。分配者の属性は3種類設定された(内集団メンバー、知人のいる外集団メンバー、知人のいない外集団メンバー)。予測は以下のとおりである。

 1、アメリカ人の信頼:内集団>知人あり外集団=知人なし外集団

 2、日本人の信頼:内集団=知人あり外集団>知人なし外集団

 結果は、予測を支持するものであった。「分配委任」において、国と分配者属性の間に交互作用効果が見られ、下位検定により、アメリカでは、内集団>知人あり外集団=知人なし外集団、日本では、内集団=知人あり外集団>知人なし外集団、という予測通りのパターンが見られた。さらに、自己申告尺度によって測った「信頼感」と「期待金額」においても、同様のパターンが得られた。

 これらの結果から、仮説通り、「外集団に知人がいる」という情報の信頼に与える影響が、日米で異なることがわかった。日本では、ネットワークの存在を想定することで外集団へ信頼が拡張したことから、ネットワークが重視される「ネットワークモデル」が、日本における信頼を説明する上でより適切であることが示唆される。一方、アメリカでは、外集団に知り合いがいても内外集団の壁は強固であったことから、内外集団間の比較が重要視される「自己カテゴリー化モデル」がより当てはまる可能性が示唆される。


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