題目: 調和を好む東洋人 −文化特異的行動パターンの要因−

氏名: 高橋知里

担当教官: 山岸俊男


 東洋人は人間関係における対立を好まないと言われている。自分と他者の間に意見や利害の不一致という葛藤が生じた場合、相手を説得したり、強引に自分の意見を通すようなことは避ける。また、自分を含まない二者が対立している状況においても、どちらか一方を支持するのではなく、二人の言い分の中を取って仲裁しようとする。本研究の目的は、このような東洋人の中道的判断がいかなる状況において起こるものなかを明らかにすることである。

 本研究では、東洋人の中道的判断とは、二者間の対立を解消するための方略であると考える。この問題について、認知的側面からアプローチしているNisbett, Peng, Choi, & Norennzayan (2001) によると、東洋人の中道的判断は、対立を許容する文化特異的思考法に基づいた行動パターンであることになる。これに対して本研究ではさらに、Nisbett et al. (2001) の言う、対立を許容するという文化特異的思考法に基づく判断パターンは、二者の対立という社会的文脈においてのみ見られると予測する。

 以上の予測を検証するため、Peng & Nisbett (1999, Study 5) の実験パラダイムを改変して、日本人と中国人を対象に実験を行った。実験では参加者に刺激文の内容の正しさを判断させた。また本研究では、刺激文章に、議論している二者の主張について判断するような状況を想起する手がかりがある条件と、文章内容は対立しているが、主張者は不明で二者の対立を想起する手がかりがない条件を設けた。予測によると、東洋人は二者の対立という状況において、仲裁の方略として中道的判断をする。これに対して、二者の対立を収める方略をとる必要がない状況では、中道的判断はしない。よって東洋人の中道的判断は、二者の対立状況を想起させる条件において、より顕著に見られるはずである。

 結果は、東洋人は、文章内容を主張して言い合っている二人の人間を想起するからこそ、二者の対立を解決する戦略としての中道的判断をするという、予測のパターンと概ね一致した。しかし、これは統計的に有意な結果ではなく、実験操作の妥当性や、実験に用いた質問紙の日本語から中国語への翻訳の困難さによる問題などが残された。


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