卒論題目:「寡きを患えず,均しからずを患う」? −合議によるパレート原理の創発−

 

氏名:田村亮

 

指導教官:亀田達也

 

人間にとって,他者との協調行為によって得られた資源を,どのように分配するかという問題は,非常に日常的かつ重要である.獲得された資源は,作業に参加したメンバー全員が納得するように,人々に望ましいと考えられている方法によって分配されなければならない.公正で,なおかつパレート最適状況をもたらす分配方法は,望ましいものとして人々に受け入れられるであろう.しかし,上記のうち片方しか実現できない場合,人は公正さとパレート最適性のどちらを重要視するのであろうか.

個人の様々な分配方法に対する選好を分析することで,この疑問を明らかにすることを試みている先行研究によると,資源分配では,パレート最適性より公正さが重視されることが明らかになっている(McClelland & Rohrbaugh, 1978; 大坪・亀田・木村, 1996).しかし,資源分配はそもそも複数人数で行うものであり,どのような分配方法が望ましいかは,話し合いや意見交換によって決められていくと考えるのが妥当である.よって本研究では,望ましい資源分配方法に関してグループに話し合いを行わせた.

論理的な解が存在しない問題に関してグループが話し合いを持つ場合,グループの決定は個人の初期選好を多数決的に集約した結果と近似する,という伝統的知見と,先行研究による結果を併せて考慮すると,本研究の実験も,資源分配においては公正さが重視されるという結果になると予測される.ところが,本研究が示したのは,グループは意見の集約を多数決的には行わず,パレート最適状況をもたらす分配方法を支持するようになるという,極めて興味深い結果であった.このことから,話し合いによってパレート原理が創発的に生じることが判明した.以上の結果は,話し合いが経済学的な合理性を追求する上で,有効なデバイスであることを示唆するものである.

本研究は,伝統的知見からは予測し得なかった,合議によるパレート原理の創発という現象のデモンストレーションにとどまっているが,今後は,なぜパレート原理がグループの話し合いにおいて創発的に生じるのかについて,さらに研究を進めていく必要がある.


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